精神科医に聞いた「怒らないですむ子育て」を学んで、ママのイライラから脱却しよう

子育てでイライラしないコツは、怒りのメカニズム制覇にある

決して子どもを怒りたいわけではないのに、気がつくとずっと叱ってばかりで、怒りすぎた自分に自己嫌悪、なんていうこと、ママならきっと心当たりがありますよね。

でも、「怒ること」と正しい向き合い方ができれば、子どもの力に気づいたり、子どもの力を伸ばしたりするきっかけにできるのです。怒りのメカニズムがわかれば、怒らないママになれます。そのイライラは手放せます! 怒らないですむ子育ての著者でもあり、対人関係療法の第一人者・精神科医の水島広子さんにお聞きしました。

怒りのメカニズムと、「怒り」との正しいつきあい方を学びましょう

「怒り」=「自分は困っている」サインだと認識して

怒りは「自分は困っている」と知らせてくれるサイン、ととらえてみると、怒りを「未熟なもの」としてただ抑え込もうとするのは、むしろ不適切だということがわかってきます。

危ないものを踏んだときに痛みを感じることは、決して未熟なことではありません。むしろ、安全に生きていくために必要なことです。それと同様に、「困っている」ときに怒りを感じることも、安全に生きていくために必要なことなのです。
何かを踏んづけて痛みを感じたら、足下を確認して危険物を取り除いたり、ケガの処置をしたりするのと同じように、怒りを感じたら自分の状況を確認して、問題を解決したり、傷ついた自分の心のケアをすればよいのです。
ところが、「怒ってしまう自分がイヤ」などと怒りにネガティブな意味づけをしてしまうと、かえって怒りを手放しにくくなってしまいます。そして、「困らないようにするためにはどうしたらよいか」という「次」のステップに進めなくなってしまうのです。 
怒りを感じたら、「自分は困っている」というメッセージだけを受け取り、困らないように対処していく、というのが怒りという感情の「正しい使い方」です。

「こんなはずではなかった」
「どうしてこうなるの?」
「どうして○○してくれないの?」
「どうしてそんなことをするの?」
「私を困らせたいの?」
「前に約束したことと違うじゃない」
「いつも言っているのに、どうしてわかってくれないの?」
「もうどうしたらいいか、わからないじゃない!」

怒っているときに感じているこれらの気持ちは、いずれも「困った!」という心の悲鳴です。怒りを「怒り」として見るのではなく、「困った自分の心の悲鳴」としてとらえるようにしましょう。そうすると、ものの見え方がガラリと変わり、事態を改善する視点がもてるようになります。
怒りを正しく使えば、子どもとの関係もとても豊かで楽なものになっていきます。怒りを抑えてしまうと、そんな可能性も閉ざしてしまうことになるのです。

子育てにイライラ、怒りを感じたときの対処法は?

STEP1:「自分は困っている」と自覚する

STEP 2:「自分の期待と現実がズレたから」と理解する

STEP 3:自分の期待は「現実的なもの」かを考える

 

つい怒ってしまうのは、「期待する現実」と
「実際の現実」が違うから

私たちは「現実がこうであってほしい」という期待をあらゆるものや人、状況に対して抱いています。
もちろんそれはいつも意識されているわけではありません。でも、「現実がこうであってほしい」という期待と、実際の現実が違うと、何らかのストレスを感じ、その「ズレ」に気づくものです。
たとえば朝起きて雨が降っているとき、「ああ今日は雨か、いやだな」と感じるとしたら、それは「天気は晴れのほうがよい」という期待があるからなのです。その期待と現実が違うので、「いやだな」と感じるわけです。
知らない人に馴れ馴れしくされると不愉快なのは、「知らない人は知らない人らしくふるまってほしい」という期待があるからです。
ある程度のお金を出して買ったものがすぐに壊れてしまうとショックで頭に来るのは、「ある程度のお金を出して買ったものは、それなりに長持ちしてほしい」という期待があるからです。

怒りという感情は「期待と現実のズレ」、「困った」状況

こうやって考えていくと、私たちがあらゆるものや人、状況に対して、意識していないにしても何らかの期待を抱いている、ということが理解できると思います。
怒りという感情は、この「期待と現実のズレ」が強く感じられるときに起こってくるものです。怒りは「自分は困っている」ということを知らせる感情だとお話ししましたが、期待と大きく異なる現実は、まさに、「困った」状況です。怒りを覚えるのは当たり前なのです。
たとえば、忙しい日なのに子どもが言うことをきかないというとき、私たちはつい怒ってしまうものですが、「期待と現実とのズレ」と考えれば、これは当然のことですね。「忙しい日くらい、いい子でいてほしい」という期待を、どこかしらでもっているので、それと違う現実に直面すると、まさに「困った」ことになり怒りを感じる、ということなのです。それ以上のことでも、それ以下のことでもありません。

期待の内容を、現実的なものに変える視点をもちましょう

「期待しすぎ」と思うと自分が不適切なことをしている感じがしますし、「期待できない」と思うと絶望的になります。でも、「期待が現実的かどうか」ということであれば、前向きに考えようという気持ちになりませんか。
どんな人でも、あらゆるもの・人・状況に対して、何らかの期待をしています。これは生き物としての人間が生きていく上で、むしろ必要なことなのです。ものにはだいたいその「定位置」がありますよね。車は車庫。ハサミは一番上の引き出し。包丁はキッチンの開き戸の裏側。歯ブラシは洗面所。
そういう「定位置」がわかっていて、私たちの生活は成り立つものです。これらのものが、いつも「定位置」をもたずに不規則に移動していたら、無事に暮らすこともできなくなってしまいます。


じつは私たちが、人・もの・状況に何らかの期待をするということは、その「定位置」をとりあえず決めておく、というようなもの。まわりのものの「定位置」をある程度決めておかないと日常生活が成立しないのと同じように、「○○はおそらくこうなるだろう」というとりあえずの「定位置」、つまり「期待」は生きていくために必要なのです。
ですから、「期待をやめる」などという選択肢はありません。また、「自分は期待しすぎているのだ」と自分を責める必要もないのです。
必要なのは、「その期待は、現実的なものだろうか」という視点だけ。
現実的な期待でなければ、満たされることもありませんから、ずっとストレスを生産し続けることになりますね。もちろん、怒りも次々とわいてくるものです。
非現実的な期待をする、ということは、たとえば包丁の「定位置」を「寝室」にしておくようなもので、料理のたびにキッチンで「どうしてここに包丁がないの⁉」と怒りを感じるのと同じようなこと。
自分の期待を現実的なものに変える、というのは、とりあえず決めておいた「定位置」を、本当にそのものに合った「定位置」に変える、という作業です。

より詳しい内容が知りたければ、こちらの書籍で!

そのイライラは手放せます! 怒らないですむ子育て

ついつい怒ってしまうけれど、子どもは本来親を癒やす存在。怒りとのつきあい方を学ぶことで変わることができます。読めば子どもが愛しくなる、母親としての原点に帰ることのできる1冊。

水島広子・著 小学館 定価 1200円+税

著者・水島広子(みずしまひろこ) 精神科医。日本における対人関係療法の第一人者。2000年から二期5年間、衆議院議員を務め、児童虐待防止法の抜本的改正などを実現。現在は、対人関係療法専門クリニック院長。二児の母。著者HP

写真/石川厚志 イラスト/わたなべひろこ 再構成/HugKum編集部

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