絵本作家 鈴木のりたけさん「ありそうでなかった絵本を作っていきたい」

絵本作家の方はどのように絵本と出会い、楽しんでいるのでしょう。 お子さん3人のパパでもある鈴木のりたけさんにうかがいました。

すずき・のりたけ
1975年静岡県生まれ。会社員、グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。『しごとば』で人気爆発。『ぼくのトイレ』(PHP研究所)で第17回日本絵本賞読者賞、『しごとば 東京スカイツリー』(ブロンズ新社)で第62回小学館児 童出版文化賞を受賞。その他の著書に『とんでもない』(アリス館)、『おしりをしりたい』(小学館)など。鈴木のりたけ日記

 

子ども時代に夢中になった  かこさとしさんの科学絵本

子ども時代に強烈に印象に残っている絵本が あって、かこさとしさんの『海』『地球』『宇宙』という科学絵本のシリーズなんです。小学校低学年の 頃に図書室で見つけて、食い入るように読んでい ました。その時の窓から射し込む光、空気感まで 今も鮮明に覚えていますね。それはやっぱり、自分自身で発見した絵本だったからだと思うんです。絵本というと何かいいお話、教訓がストーリーを通して得られるもの、というイメージがありますよね? かこさんの科学絵本は自然の仕組みを紹介した図鑑であると同時に、一つの物語にもなっていて、しかも本筋と関係ない遊 びや情報が散りばめられているんですよ。 だから、どこをどう読むかは本当に自由。誰かに読 んでもらったり、読まされるのではなく、自分 からおもしろいことを探しにいく感覚があるのが楽しくて、もっと知りたくなるんです。もちろん、当時はただ夢中になっていたわけです が、今思えば、そうやっておもちゃに近い感覚 で遊べる絵本だったから、ものすごく衝撃を 受けたのでしょうね。

 

眺めているだけでわかる  絵本のおもしろさ

もともと僕はグラフィックデザインの仕事をしていたのですが、仲間の机まわりを見ると同じ仕事なのに置いてあるものが違うんですよね。仕事場にその人の個性や職業の性質が垣間 見えることに興味を持ったことが、『しごとば』シリーズのきっかけになりました。その1冊目を作る時、絵本を勉強しようと思って買ったものが、かこさんの科学絵本シリー ズでしたね。『輪切り図鑑』シリーズは大人になっ てから出会い、「こういう絵本を作りたい」と思っ ていた1冊。『しごとば』を作る上でも参考にしています。世の中に図鑑はたくさんあるけれど、かこさんの科学絵本も『輪切り図鑑』も、単に情報を並列するのではなく、編集されたおもしろさがあるのがいいなと。『大帆船』 には乗組員の食事の献立表が妙に詳しく紹介されていたりして(笑)。すごく興味をそそられるし、 眺めているだけで、いろいろなことがわかる気持ち良さがありますね。

絵本を材料にして 子どもたちと遊んでいます

うちには今7歳、4歳、2歳の子どもがいて、年齢によって読む絵本が違います。それぞれ好きな絵本を好きなように読んでいますね。毎晩、寝る前には子どもたちと絵本を読みますが、いわゆる読み聞かせではないです。ストーリーからなぞなぞを作って出し合ったり、気になる言葉を暗唱したり、絵本を材料にして遊んでいる感じ。たとえば柳生弦一郎さんの『かさぶた』を読む時は、「取りたいわー、取りたいわー、 かさぶた取りたいわー」のフレーズを某電気店のを真似していってみたりとか。やりすぎると「先に進めない」と子どもたちに怒られるんですけどね(笑)。『ばばばあちゃんのアイス・パーティ』もばばばあちゃんの響きがおかしくて、ずいぶん遊ばせてもらいました。そんなふうにおもちゃとして使える絵本は汎用性が高くて、親子のコミュニケーションも取れるのがすごくいいですよね。

 

ありそうでなかった絵本を 作っていきたい

今は読み聞かせがブームになっていますけれど、元来、絵本はそのためだけのものはないはず。純粋に見て楽しくて、会話が弾む。それが絵本の原点だと僕は思っています。『しごとば』の1冊目を出した時、絵本の原点に返ったと言われたんですね。でも、それを意識して作ったわけではなくて、子どもの頃に自分が一番ワクワクしたものは何かと考えていった結果、細部まで絵で見せるあ の形になり、期せずしてありそうでなかった絵本 になりました。
これからもこれまでなかったような絵本を作りたい。そう思って、絵の事典みたいなものができないかと考えているところです。
絵本はストーリーに絵が付いたもののような 印象がありますけど、絵でわかること、伝えられることがたくさんあるので。絵の可能性を もっと追求して、広げていきたいですね。

 

鈴木のりたけさんのおすすめ絵本

「輪切り図鑑 大帆船」 スティーヴン・ピースティー(画)、 リチャード・プラット(文)、 北森俊行(訳) 岩波書店  本体2400円+税
18世紀の大帆船の内部を輪切 りにして見てみよう! 当時の乗 組員たちの暮らしぶりに想像が ふくらむ図鑑絵本。

 

「海」加古里子 福音館書店  本体1500円+税
身近にありながら、今なお多くの謎を秘めた海。海の持つ力、 可能性を、細かく描かれた絵を 通して紹介した図鑑絵本。 「波打ち際の場面から、最後には 壮大な地球のドラマへと飛躍していく展開が素晴らしいです」 (鈴木)

 

「かさぶたくん」やぎゅうげんいちろう 福音館書店 本体900円+税
(鈴木さんのお子さんの落書きつき。愛情の印!)
「ばばばあちゃんのアイス・パーティ」さとうわきこ 福音館書店 本体900円+税
「14ひきのひっこし」いわむらかずお 童心社 本体1200円+税

 

「おならをならしたい」 鈴木のりたけ 小学館 本体1400円+税
おならの音が出るのはなぜ? 『おしりを知りたい』に続き、子ど もたちが興味津々のテーマを おもしろおかしく探る。「僕が初めて“読み聞かせできる” ことを意識して作った絵本です」

提供元 おひさま2016年4/5月号

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