リオとリオン

富安陽子

 

 今回、小学館児童出版文化賞の読み物の審査では〝子どもの本とは何か〟という根本的なテ
ーマが議論されました。児童文学作品の審査の難しさは、対象となる読者の年齢によって、求
められる作品の文学性が全く異なるという点にあります。小学校の低学年向けの本なのか高学
年向けの本なのか、それとも中高生向けの本なのかによって、評価すべき点も基準も変わって
きてしまいます。さらには、その作品が子どもという読者に向けて書かれているのか、或いは
そもそも子どもに向かって書く必要はないのか、という議論もあって、審査員は毎回大いに頭
を悩ませるわけです。

 

 これは子どもの本と呼べるのか?…というボーダー上の…というか、ボーダレスな作品達の
中にあって〝王様のキャリー〟は明確に子どもに向けて書かれた作品でした。

 

 グイグイ読者を引き込む軽快な文章と、前へ前へと澱みなく進んでいくストーリー。くっき
りとした輪郭を持つキャラクター造形とシンプルで無駄のないプロット。eスポーツをモチー
フにしたこととも相まって、子ども達が文句なしに楽しめる一冊だと思いました。

 

 物語は勝生が車椅子の少年リオと出逢うところから始まります。実はリオにはe スポーツの
プレイを配信する動画配信者・リオンというもう一つの顔があります。縦横無尽にスクリーン
の中を走り回り、的確に敵を倒し、圧倒的な強さを誇るリオンと、車椅子なしでは移動が儘な
らないリオ。スクリーンの外では、小さな段差も、わずか数段の階段も、電車や車の乗降も、
全てが障害となる…それがリオを取り巻く現実なのです。

 

 スクリーンの中のリオンに憧れる勝生が、スクリーンの外でリオに出逢うことによって、こ
の二つの世界の対比が見事に描き出されていきます。

 

 ゲーム用語でキャリーと言えば、上級プレイヤーが未熟なプレイヤーをサポートして、ラン
クを上げさせたり、スコアを稼がせてやることなのですが、タイトルにはキャリーする立場の
リオが車椅子でキャリーされる立場にもあるという二重の意味が込められているのでしょう。
二つの世界のギャップを越え、心を通わせていく少年達の物語は軽やかでありながら読み応え
がありました。

 描写や語法、文章の深まりにはまだ課題があるかもしれません。でも、まっすぐに子ども達
に届く本当に面白い物語を創り出すことができるという資質は得難いものです。どうぞこれか
らも、子ども達に向けてたくさんの物語を届けてください。