おままごとの世界で味わう「おいしい」

鈴木のりたけ

 

 おいしそうな絵を描くというのは、想像する以上に難しくて、奥が深いです。上手に描いて
も、それがおいしそうに見えるとは限りません。写実的にソースや油の照りを再現して、柔ら
かな湯気までを描き切ったとしても、そのスーパーリアルな絵は、必ずしも見た人のおいしそ
うという感想にはつながりません。見た人はまず「本物みたい」と驚き「リアルだ」と感心し
てしまいます。絵でおいしそうと思ってもらうためには、本物ではないのにおいしそうと思っ
てもらう必要があるのです。

 

 そこで「山のフルコース」です。たき(滝)のスパークリング。サババババ。ふむふむ。ま
あこれは楽しく飲めそうです。次。ぐわしゃ。(山の)てっぺんのフレッシュサラダ。食える
かっ! だって、これ完全に土が混ざってるし! ここで私は「おままごと」を思い出しまし
た。子どもたちが砂場でプリンの容器をバカッと返して作った山に、白砂をサラサラ。気の利
いた子は雑草の一本も添えます。その時、こんなもん食えるかっ! とは誰も言いませんよね?

「あら、おいしそう。いただきます!」そう言った感想の半分はお世辞やボケかもしれませ
んが、もう半分は、やっぱり本当の「おいしそう」だと思うのです。この時、人は想像力を働
かせて、自分の頭の中においしいを作り上げます。「山のフルコース」がおいしそうなのは、
そういう理由だと思います。リアルさとは対極の粗さが生む絵の手ざわりや、色自体のきらめ
きが、見るわたしたちをおままごとの世界へといざないます。おいしそうな絵は、こうして作
られます。

 

 おままごとの楽しい世界への没入感にドライブをかけてくれるのは、絵だけではありません。

キャッチーなオノマトペと、ごっこ遊びのしきたりをしっかり踏襲したような語り口。上か
ら下への動き、視点の転換、ぐるぐると時間の経過を感じさせる動きからの、ガバッと一気に
山をぶった斬る気持ちよさ。すべてが遊びのテーマになっていて、飽きさせません。おいしい
とたのしいのコラボレーションは強いです。

 

 そしてニクいのが終わり方です。「フルコースに時間かかりすぎ!」と、読者がツッコミを
入れたら、そこはもう作者の掌の上。空間的、時間的スケールの大きな山の営みが感じられる
気持ちのいい場所へとご案内。素敵な旅館で、押し付けがましくない、手の行き届いた一流の
サービスを受けたような感覚です。

 

 読み終わった時に、狐につままれたような感覚を覚える本や、予想を覆すような本は、刺激
はありますが、なかなか好きになれません。そしてそういう本は意外と多いです。でもわたし
は、読み終えた時の爽快感や、また読みたくなるような親しみを感じる本に出会いたいです。

「山のフルコース」は、そういう本です。