教育のプロに『小学一年生』を活用する方法をうかがう企画がスタートしました。
第一回は、神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 准教授の赤木和重先生です。
アメリカでのインクルーシブ教育(すべての子どもをふくみ込む教育)研究の経験もある先生の目から、学習雑誌『小学一年生』はどのように映るのでしょうか?
『小学一年生』は、お子さんの勉強にどう役立つのでしょうか。発達心理学を専門に研究している立場から、『小学一年生』の活用の仕方をお話しします。
■ゆるさの中に、実は、勉強の要素がかなり入っている
『小学一年生』の最大の魅力は、「なんとなく楽しんでいるうちにいつの間にか勉強できる」ゆるさにあります。
『小学一年生』を購読していた大学生や、現役の小学生に『小学一年生』の印象を聞いたところ、「付録が楽しみだった」「ハム太郎のまんがを楽しみにしていた」「いろいろあるところ」という答えが返ってきました。「勉強」について話してくれた大学生・小学生はいませんでした。
でも、『小学一年生』を開いてみるとわかるのですが、勉強の内容がかなり入っているんですよね。
計算ドリルのように直接的なお勉強もあれば、ドラえもんを通じて社会のことを学べる企画や、工作や実験などで科学知識が身につくような間接的なお勉強もあります。専門家から見れば、すべてのページが学習に直接・間接につながっています。
しかし、子どもは全くそのようには見ていない。
■子どもは勉強に気づいていない、ズレこそがいい
「勉強がたくさん盛り込まれているのに、当の子どもたちはそうは思っていない」…このズレこそが、めちゃくちゃいいんですよねぇ。
小学1年生は、「遊び」と「学び」の間に生きている年頃です。遊びと学びの区別がはっきりしていません。
だからこそ、「まんがを読む」「付録を作る」という遊びの中で、学習していく必要があります。それが『小学一年生』では無理なくできるのです。
本屋さんで売っているドリルや、勉強に特化した通信添削講座のように「お勉強しましょう。お勉強しなければ」と肩に力をいれる必要がありません。
ゆるいのです。なんとなく本を開いて、なんとなーくまんがを読み、夢中になって付録を作っていくうちに、文字や数を学んでいきます。遊びからなんとなく入って、いつの間にか学びが達成されるところに『小学一年生』の魅力があります。
それに、ここだけの話、お母さん・お父さんも、『小学一年生』に「勉強」はそんなに期待していないのではないでしょうか。
私が子どものころ、「風邪がなおりかけ」の時に、『小学○年生』を買ってもらえるというルールがありました。当時は、母の優しさに涙しました。
しかし、親の立場になってみると、ちょっと違う気がしてきました…。
■まんがや付録を楽しむなかで、子どもはいつのまにか学んでいく
「風邪のなおりかけ」って、子どもってすごい元気なんですよね。しかし、親としては相手をする暇がない…。となると、我が母は、暇つぶしとして私に『小学○年生』を与えていた気がします。
私が教えている大学生の1人は、「おばあちゃん家で過ごすときに買ってもらってた」とのこと。これも暇つぶしとして『小学一年生』が買われている可能性が高いです。
この使い方、『小学一年生』を買って子どもを賢くしようとは、みじんも思っていませんよね。でも、それでいいのです。これがいいのです。
だって、子どもは『小学一年生』を娯楽雑誌として見てるのに、そこで「勉強しなさい」というのは不自然ですから。
娯楽は娯楽、ゆるくていいのです。でも、そんなふうにして、まんがを読んだり、付録をつくっていくなかで、子どもはなんとなくいつのまにか学んでいきます。
■「いつのまにか学ぶ」を引き出すコツ
とはいえ、「なんとなくいつのまにか学ぶ」ことを引き出すには、いくつかコツがあります。
1.一緒に読む・作る。
わが子とわいわい言いながらまんがを読んだり、付録を作ってください。
すると、子どもは『小学一年生』が好きになります。好きになるとなんとなく何度も手に取ります。手に取るといつのまにか学びます。
2.目につくところに置く。
リビングの机の上など子どもの目につくところに置いておいてください。本棚の一番ええところに置くのもいいでしょう。手持ちぶさたのときになんとなく手にとりやすいからです。
3.「勉強しなさい」を言わない。
ここ、一番大事なところです。あくまで小学1年生は娯楽雑誌です。
遊びです(正確には遊びの中に学びが埋め込まれているのですが)。
ガツガツ期待してはいけません。まんがしか読まなくても、つまみ読みでもOKです。
むしろそれがいいのです。
赤木和重(あかぎかずしげ):
1975年生まれ。神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 准教授。専門は、発達心理学。
主な著書に、『アメリカの教室に入ってみた:貧困地区の公立学校から超インクルーシブ教育まで』(ひとなる書房)。趣味は寝ること、我が子(小5の娘、4歳の息子)と遊ぶこと。