ぴっかぴかえほん『ともだちなんか いらない』の原画を携え、新人絵本作家の喜湯本のづみさん(写真左)と一緒に、「ともだち」をテーマにした絵本の名手・内田麟太郎さん(写真右)のお仕事場を訪ねてきました。
ぴっかぴかえほん
『ともだちなんか いらない』
著・文/内田麟太郎 著・絵/喜湯本のづみ
小学館刊
――『ともだちなんか いらない』の絵の第一印象はいかがでしたか?
内田 おもしろい。大胆でユーモアがあると思いました。喜湯本さん、学校の成績はどうだったの?
喜湯本 勉強ですか? あんまりできなかったですね(笑)。
内田 そうでしょう。
こういうふうに、絵柄がわーっとのびやかに描ける人っていうのは、そんなに勉強が得意じゃないのよね。
授業中は何か他のことを考えているんだから(笑)。
喜湯本 確かに、らくがきはいっぱいしていましたね。教科書に(笑)。
今回、麟太郎さんの文章を絵に起こし始めたとき、文と文の間に絵が入る自由な隙間があると感じました。これがまた絶妙で。
内田 絵本っていうのは、文章だけで立派にできあがっていてはいけない。
絵と文2つが一緒になって完成するのが絵本なんだと思うんです。
喜湯本 でも、麟太郎さんが思っていたイメージとは全然違う絵であがってきたときはどうなんですか?
内田 それがおもしろいのよ。自分の想像を超えてくれるわけだから。
『ともだちや』シリーズ(偕成社刊)も、降矢ななさんと出会っていなければ、これほどヒットしなかったと思うんです。
「気づいたら心の中にすみついていた、友だちってそういうもんだと思うんです」(内田)
――今回のミニ絵本も、「ともだち」がテーマですね。
内田 ともだちの本を書くときに、いちばん考えるのは、無理をしないということ。
ともだちはいたほうがいいから、つくりましょう、とかじゃなくてね。
気がついたら心の中に住みついていた、というように、自然にできるのがともだちだと思うんです。
喜湯本 主人公のギザギザは、「ともだちなんていらない」と言いながら、森の動物たちを毎日遠巻きに眺めています。
内田 そうそう。ほんとに「いらない」って思っているなら、だれもいないところにいればいいのにね。
本人が気づいているかどうか知らないけれど、ともだちが欲しいわけよね。
でも、自分から下りていくことはできないタイプだから。
喜湯本 麟太郎さんは、小さい頃はともだちは多かったですか?
内田 僕が育った大牟田市は当時、石炭で景気がよかったから、学校にはだいたい千人ぐらい子どもがいましてね。
うちは商店街のそばの看板屋だったから絶えずだれかがいて、兄弟も6人いて騒がしかった。
むしろ1人になりたいくらい(笑)。
遊びに行くときは1人が多かったけど、商店街からちょっと離れた社宅に住んでいた子と仲良くなって、よく冒険に連れだって行きました。
彼は、足が片方少し不自由でね。僕のほうは父が再婚した継母とあまりうまくいっていなくて、ちょっと寂しいところがあった少年で、お互い何か通じるところを感じたのか、いちばん仲良くなりましたね。
「不思議とわかりあえるともだちに出会ってから、逆に1人でいることも寂しくなくなりました」(喜湯本)
喜湯本 僕もともだちは少なかったんですよ。
別に仲間はずれにされてるわけでもないし、集団で遊んだりもしてたんですけど、いつもどこか寂しさを感じてました。
でも、21歳のときに、バイト先で出会ったヤツと、初めて顔を合わせたときから不思議と気が合い仲良くなって、ともだちに対する感覚が変わった気がします。
それからは逆に1人でいることも寂しくなくなったんですよね。
内田 人と人のつながりには、何かを一緒に体験して、共感する、共有することが必要なんですよね。
この絵本も、その道具になればいいな、と思っています。
この物語のメッセージがどうこう、というのを離れて、隣の子が「何、読んでるの?」とのぞいてきたり、「この絵おもしろいね」なんてくすっと笑いあったり、それがきっかけでともだちになってくれたらいいなと思っています。
撮影/細川葉子 取材・文/田中明子(本誌)
Profile・うちだ りんたろう
1941年、福岡県生まれ。絵詞作家・詩人。文章を手がけた『おれたち、ともだち!』シリーズは、小学生の間で大人気の絵本。『さかさまライオン』で絵本にっぽん賞、『うそつきのつき』で小学館児童出版文化賞、『がたごとがたごと』で日本絵本賞を受賞。ほか、著書多数。
Profile・きゆもと のづみ
1977年、大阪府生まれ。イラストレーター。広告制作会社退社後、イラストレーターとして活躍。 2012年『詩とファンタジー』イラスト部門年間大賞、2013年有田川町絵本コンクール最優秀賞、2015年『おひさま』大賞、受賞。