弱肉強食とは無縁の”ほっこり系”恐竜絵本の作者たしろちさとさん。
新作『きょうりゅうのおいしゃさん』のユニークなアイディアは、どこから生まれたのでしょう?
絵本の誕生秘話と、本作の見どころをうかがいました。
絵本『きょうりゅうのおいしゃさん』の誕生秘話
「恐竜の卵」は、ずっと気になっていたテーマです。
最初に取材で福井県立恐竜博物館にお伺いしたときから、恐竜の卵の展示に目を奪われていました。恐竜も卵から生まれてくるんだ、という発見と、命の尊さ、力強さみたいなものを感じて。
それで1作目の『きょうりゅうオーディション』のときは、子育てをする恐竜のプシッタコサウルスの卵を登場させました。2作目の『きょうりゅううんどうかい』では、その卵から生まれた恐竜の子どもが元気に走っている姿を描きました。
保育園の読み聞かせ会におうかがいしたときに、ある女の子から「最初の絵本で卵だったのが、次の絵本で赤ちゃんになっているところがおもしろかった」といわれたこともありまして、「恐竜の卵」は小さな子どもさんにも何か心に残るものがあるのだと分かりました。
そんななかで2024年春、東京で開催された「オダイバ恐竜博覧会」に行ったときのことです。マイアサウラという恐竜の展示があったのですが、その足元に卵がいくつもならんでいて、ピキッと殻が割れている卵もあれば、ヒビから顔をのぞかせている赤ちゃんもいて。親恐竜のマイアサウラは、その卵や赤ちゃん恐竜を愛おしむような慈しむような表情でみていたんです。

それでもう「わぁー」っと心をつかまれて、写真も撮ったし、動画も撮ったし、その場を去りがたい気持ちでいっぱいになりました。それが本作のアイディアのきっかけともいえるかもしれません。
主人公フクイベナートルさんが秘密のベールを脱ぐ?!
恐竜研究が進むのにあわせて、変化したこともあります。
2016年に福井県立恐竜博物館に取材にうかがったときに、新種として発表されていたのが「フクイベナートル」でした。
そのとき初めて骨格標本の展示をみたのですが、いまにもタップダンスを踊りだしそうなくらい軽妙でしっぽもピンとしていたんです。それで劇団のオーディションのお話を思いつきました。
でも、昨年のオダイバでの展示では、ベナートルさんはモフモフした羽毛に覆われていて、思っていたより大きくて迫力もありました。研究がどんどん進んでいろいろなことが分かると、それにあわせて展示も変わっていくんだなあと実感しました。

今回の絵本でも、恐竜博物館の研究員の方々に教えていただいて、ベナートルさんの首やしっぽについて最新のアドバイスをいただきました。前作との違いもお楽しみいただけたらうれしいです。
でも、絵本のなかのベナートルさんの性格面はあいかわらずで、世話焼きでみんなに慕われています。今回はそんなベナートルさんの謎、プライベートな一面も明らかになります。恐竜たちとのかけあいやバランスで生まれる楽しい時間をいっしょに過ごしていただけたらなと思います。
恐竜たちの模様は、葉っぱや木の板、石ころや石板などの自然の模様を、和紙などに写して、それを切り貼りしたコラージュ画法で描いています。ベナートルさんの蝶ネクタイには、野外恐竜博物館の発掘体験で私が見つけた植物の化石の模様が写し込まれています。太古のロマンを感じていただけたら幸いです。
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○プロフィール / たしろちさと
東京都生まれ。神奈川県在住。2001年に絵本作家としてデビューした後、『ぼくはカメレオン』は2003年に世界7か国語同時発売となる。『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』で日本絵本賞受賞、『ぼくうまれるよ』でブラチスラバ世界絵本原画展入選。ほか著書多数。小さいころから恐竜が好きで、本作は『きょうりゅうオーディション』『きょうりゅううんどうかい』に続く恐竜絵本第3弾となる。