▲ハローキティ担当デザイナー 山口裕子さん。
わずか2分くらいでサラサラ〜ッとハローキティを描きあげてくれました。
『小学一年生』2017年8月号では、「ハローキティ」や「シナモロール」など大ヒットキャラクターを生み出している株式会社サンリオの本社を取材して、「みんな大好き キャラクターづくり」という記事をお届けしています。
大ヒットキャラクター「ハローキティ」のデザインを1980年から手がけているのが、デザイナーの山口裕子さんです。ハローキティを進化させつつ、世界でも有名な人気キャラクターに育てあげた人と言われています。
そんな山口さんに、前編では、『小学一年生』を買ってもらえなかった子どものころの思い出などをうかがいました。つづく後編では、ハローキティなどの人気キャラクターを生み出した秘訣などをうかがいます。
■キャラクターという言葉がなかった時代
ーー最近はキャラクターデザイナーになりたいというお子さんも増えてきました。
憧れの職業は時代によって移り変わりますよね。私がサンリオに入社したころは「キャラクター」とか「キャラクターデザイン」とか、そういう言葉は聞いたことがありませんでした。「ファンシーデザイン」と言っていたんです。
ミッキーマウスにしてもスヌーピーにしても「キャラクター」とは呼ばれていませんでしたね。いつから「キャラクター」という言葉が広まったんでしょうね。いつか研究してみたいと思います。
入社したときには企画制作部と呼ばれていた部署を、キャラクター制作部と名づけたのは私です。キャラクターってつけたほうがかっこいいかなと思ったんです。
ーーハローキティは、初めから世界で通用するキャラクターを目指していたのですか?
最初は全然。日本しか視野に入れていませんでした。アメリカに初めて行ったのが1980年でしたが、そのときはアメリカでもヨーロッパでも、キャラクターグッズというものはあまり売られてなかったんです。
そして、80年代なかばにアメリカ人と話す機会がありました。「なぜ欧米の人はキャラクターグッズを持っていないの?」と聞いたら、「それは子どものものだから大人は持たないんだよ」と。
すでにアメリカでオープンしていたディズニーランドなどテーマパークで売られている人気グッズであっても、「テーマパーク以外で売っても売れないんだ」と言われました。
ヨーロッパには子ども向けでも、キャラクターグッズはありませんでした。その理由は、「子どもに与えるおもちゃは木製でなくてはいけないんだ」ということでした。ヨーロッパには絵本生まれのキャラクターが多いのですが、そのグッズを作っているのはおもに日本なんです。
■「海外で売れない」という言葉をバネに
ーーそんななか、ハローキティの人気が世界に広まっていきましたね。
「キティちゃんなんか海外では売れないよ」とも言われました。私自身も、アメリカでキティが受け入れられるなんて、やはり難しいかなと思い始めていました。
しかし、2000年になるちょっと前に、アメリカのセレブの人たちがキティちゃんに注目しだして、「これイケるかな?」と思うようになったんです。
どうやらセレブの人たちは、小さなころからキティちゃんのグッズに親しんでいたようです。アメリカで買うと、日本の価格の5倍くらいする、ずいぶん高価だったものを「セレブだから」持っていたみたいなんですね。
ーーキャラクターを考案するときに気をつけていることはありますか?
キャラクター作りでは、グッズありき、です。グッズから生まれたという原点をつねに意識しています。
当社の企業理念に「Small Gift Big Smile(スモールギフト ビッグスマイル)」という言葉があるのですが、それは絶対忘れてはいけないと思っています。プレゼントをもらって嬉しくない人はいませんよね。ほかの会社にはない理念だと思いますし、これを忘れたら私がサンリオにいる意味がなくなりますから。
映画やコミックから生まれたキャラクターとは違う、サンリオ独自のキャラクターの生み出し方をしているので、その意味では、サンリオキャラクターのライバルはいないと思っているんです。
規定を作りすぎてがんじがらめになって売れなくなっていったキャラクターもいますし、そういうふうにはなりたくないですね。「キティちゃんは何歳?」と聞かれても、見る人が自由に何歳かを決めてくれればいいと思っています。
■キャラクター作りの仕事に必要なこと
ーーキャラクター作りをお仕事にするために、子どものうちからやっておいたほうがいいことはありますか?
世界各国を視野に入れたキャラクターを作るわけですから、英語の勉強は絶対必要ですよね。海外留学は視野を広げるだけでなく、親離れ・子離れのためにも貴重な経験になると思います。
私自身、1984年の1年間、アメリカ・サンフランシスコで暮らしたのですが、それはすごくいい経験になりました。アメリカで売れているわけでもなかったキティをどう育てていこうかと考えていた時期でもありました。
憧れていたアメリカにひとりで行って、アメリカの文化を知り、そこで得たことをキティに反映させたのがよかったのかもしれません。もし行っていなかったら、今のようにキティは続いていなかったかもしれません。
現在、サンリオには海外子会社が9か国にあり、そこのデザイナーが東京の本社に来て研修をして交流を持つという取り組みをしています。海外のデザイナーにとっては日本を知る機会となり、うれしいようです。
■子どもがやりたいことをやらせる
ーー小学1年生のお子さんをお持ちの親御さんへ、メッセージをお願いします。
何よりも子どもがやりたいことをやらせてあげるのがいちばんだと思います。私の場合、幼少時から高校3年生までピアノを習っていました。でも、それは親がそうしてほしがったからで、私としては決して好きではなかったんです。
X JapanのYOSHIKIさんは子どものころからピアノを弾いていますが、ピアノを弾いている自分が好きなんだそうです。でも、私はそうではなかった。
子ども自身が好きなことを見つけましょう。絵でも、音楽でもスポーツでも、食べ物でも、何でもいい、やりたいことをやらせてあげて、子どもが好きなことを伸ばしてあげるのが親の役目かなと思っています。
勉強も、すべてが平均点でなくても、得意なものを伸ばしていけばいいと思います。
■キャラクターグッズは平和の象徴
ーーキャラクターグッズを作ってうれしかったことや、今後の目標を教えてください。
サンリオピューロランドで、自分の生み出したキャラクターがライブで生き生きと動いているのを見たときは、何よりもうれしく感激しました。
今では、日本から遠いドバイも、ハローキティグッズを扱うショップがとてもたくさんあるそうです。
最近手掛けたキャラクターは、キッズ向けテレビ番組『サンリオキャラクターズ ポンポンジャンプ!』(BSフジで放映中)の「ピンキーリルローズ」と「リオスカイピース」です。今も手を動かしてキャラクター作りをしています。
キャラクターグッズを生み出すという仕事は、平和だからこそありえる職業なのではと思っています。私が楽しく仕事をできているということは、平和だという指針でもあります。そのありがたさを噛みしめながら、これからも多くのキャラクターを描いていきたいですね。
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撮影/大橋賢 文/村重真紀