『ぼくとばく』は、ほのぼのとした絵と印象的な言葉に、思わず笑いがこみ上げる1冊。この絵本の創作のこと、また子育てについて、作者の鈴木のりたけさんにうかがいました。
ぴっかぴかえほん
『ぼくとばく』
作/鈴木のりたけ
小学館刊
■長女のおかしな一言が絵本のアイデアに
うちには現在7歳の娘と5歳と3歳の息子がいます。子どもたちは僕が家で絵を描いているので、楽しいことばかりしていると思っているらしく、隙を見つけては仕事場に来て遊ぼうとするんです。
仕事場には僕が好きな絵本を置いているのですが、子どもたちもそれを好きに読んでいますね。今は長男が恐竜や乗り物の図鑑を眺めては模写するのに夢中で、次男はディック・ブルーナの幼児向け絵本をわいわい言いながら見ています。
長女は1、2歳から読み聞かせをしていたせいか大の読書好き。近頃は「赤毛のアン」などの読み物を読んでいますね。
その長女がある日の夕食の後、“おなかいっぱい”を“いなかおっぱい”と言ったんです。
「ムーミン」が好きで、トフスランとビフスランという言葉を入れかえてしゃべるキャラクターを真似していたのですが、“いなかおっぱい”は響きもおかしいし、なんだか意味も通じるし、おもしろい! と。
そこから絵本『ぼくとばく』は生まれました。
■言葉遊びを楽しんでもらうためのこだわり
頭の文字をとりかえても意味が通じるような言葉は他にもたくさんあるにちがいないと思っていたんです。ところがこれが意外と難しく、毎晩、お風呂に入りながら考えて…。
この絵本、ネタを出すまでにはかなり時間がかかりました。想像以上に頭の筋肉を使うので、この絵本をきっかけに、親子でぜひチャレンジしてみてください。
動物を“ばく”にしたのは、描いてみたらおもしろかったからです。ばくの体色が白黒ですし、言葉遊びにフォーカスしてもらうためにも、モノクロで描くことにしました。
■ぱっと絵を見ただけでわかった気になれるのがいい
絵本を作るときは、全体を一つのデザインとして見ることが大事ですね。ストーリーがよくてもデザインによって読みにくくなったりするので。逆に何気ない話でも、見せ方の工夫でぐんとおもしろくなることもある。
僕はグラフィックデザインの仕事を8年間していたので、クライアントを説得できるデザインを追求する中で、そういう思考訓練ができたのかなと思います。
絵本の魅力はやはり“絵でわかる”ところだと思います。絵って直感的にコミュニケーションがとれる、非常に便利で楽しいツールです。細かく説明しなくても、絵を見ただけでわかった気になれる。その快感をもっと突き詰めていきたいですね。
『ぼくとばく』を作ってみて感じるのは、日常の中に落ちている小さなものが、頭の使いようで遊び道具になるということ。まずはこの絵本で遊んでもらえたらいいなと思っています。
撮影/細川葉子 取材・文/宇田夏苗
Profile・すずき のりたけ
1975年静岡県生まれ。会社員、グラフィックデザイナーを経て絵本作家に。『ぼくのトイレ』(PHP研究所)で第17回日本絵本読者賞、『しごとば 東京スカイツリー』(ブロンズ新社)で第62回小学館児童出版文化賞を受賞。11月6日までブロンズ新社・青銅Room Jにて原画展が開催中。詳細は鈴木のりたけ日記 http://noritakesuzuki.comへ。