能天気に笑えるのは平和な世の中だってこと【絵本作家インタビュー】長谷川義史さん

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ゆかいで味わい深い、たこやき絵本『たこやきのたこさぶろう』(2016年2月26日発売)。

作者の長谷川義史さんに、絵本とは何か。その魅力について伺いました。

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ぴっかぴか絵本シリーズ
『たこやきのたこさぶろう』
作・長谷川義史
小学館・刊

詳細は、こちらのページをご覧ください

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■絵本ができた時はただの紙の束。読んでもらって、ようやく命が宿るんです。

――長谷川さんの作品は、ギャグのように笑えるものから「平和」といったメッセージ性の強いもの、家族など、テーマは多岐にわたっていますね。

ボクの場合、最初は特にテーマみたいなものはないんですね。パッと思い付いた事を、ただどんどんつなげていくだけなんですよ。結果、ああいう本ができて、できた絵本をいろいろな人が読んでくれて、それぞれの思いや感想や反応が返ってくる。

そこで「なるほど、そんな意味もあるんやなぁ」って思って、初めてボクも絵本のテーマに気付く。まったく理論的ではないですよね。ほとんど本能でやっていますから(笑)。

「たこやきの たこさぶろう」も、ボクの思い付きから始まって、さらにそこから思い付き、どんどん形になって生まれた作品です。

ボクね、できたての絵本はただの紙の束で、誰かが読んで笑ったり、何かを感じてくれたりして初めて、魂が宿るものだと思うんです。ボクはただ産み落とす人で、絵本を育てるのは読者なんだって。

 

■まじめ路線とハチャメチャ路線はボクの中では一緒。能天気に笑えるのは平和な世の中だって事だから。

テーマといえば、新聞などのインタビューでよく聞かれる事があるんです。

「『へいわってすてきだね』といった、まじめなテーマの作品を描く一方で、なぜ『じゃがいもポテトくん』みたいにギャグみたいな作品ができるんですか?」ってね。そう聞かれて初めて気付いた事なんですけど、ボクにとっては、どちらも同じなんですよ。

ハチャメチャなダジャレ絵本では「ハハハ」って能天気に笑ってほしいし、笑えるって事は、平和な世の中で幸せな生活ができている証しなんですよね。平和じゃなかったら、「ハハハ」なんて笑えない。

だから、表現の仕方はまったく違うけど、基本的には「ハハハ」って笑う絵本も、「平和でよかった」って思える絵本も、「生きててよかった、生まれてきてよかった」っていうのは共通している。違う表現ではあるけれど、ボクとしては根源が一緒なんですよね。

 

――作品制作のかたわら、絵本ライブを定期的に行っていますよね。

絵本を読みながら絵本にまつわる話をするという活動をしています。対象は大人だけの場合もあるし、子どもだけの事も、親子でという事もあります。大人の場合は、絵本にまつわる話を多めにしますし、子どもは話より絵本を多く読んであげる事が多いですね。読むだけでなく、歌を歌ったり、クイズを出したりする事もありますよ。

とはいっても、小学生と幼稚園児を同じプログラムでやる事はありません。だって、小学生が笑ってくれるところでも、幼稚園児は同じように笑ってくれへんから(笑)。

もっと感覚的に笑えるものでないとダメ。「こんなんで笑うんかい!?」って、こちらが思うようなところでずっと笑ったりしてるんです。ストーリーなんて関係ない、ただ「パーン!」って大きな声を出すだけで、ずっとケタケタ笑ってたりしてね。笑いのツボが、こちらが思ってるのと明らかに違うんですよね。

こうした読者の反応を直に見る事ができるのは、絵本ライブの醍醐味。ボクの作品づくりに大きく影響していると思います。

 

■絵本は子どもと親の関わりを取り持ってくれる道具。どんな形で読んでもええと思いますよ。

――現在、中学生、高校生、大学生になる3人の息子さんにも、読み聞かせをされましたか?

息子たちが幼い時、まじめな翻訳絵本を大阪弁で読んだ事があるんです。文章は標準語で書かれているんやけど、大阪弁にかえて読んでみたら、すごくおもしろくて、子ども達もものすごく笑うんです。まじめな絵やのに、大阪弁にするとなんやおかしいなって(笑)。

親が子どもに読んであげる時の絵本は、親子のコミュニケーションの道具だと思うんです。ボクが息子達に翻訳絵本を大阪弁にかえて読んだ事は、作者にとっては失礼な事だし、メチャクチャな事でしょう。

でも、ボクはそれでもええって思ってる。絵本が子どもと親の関わりを取り持ってくれたのならば、そこに書いてある一言一句をしっかり守らなくてもええ、どんな形でもええんやってね。

 

――小学1年生の親御さんに向けてアドバイスはありますか?

去年、『おねしょのかみさま』という絵本を出したんです。おねしょをしてしまう男の子の話なんですけど、おねしょしてもええやんってボク、思うんです。だっていつまでもしている人はいないですよね。

だから、できない事を心配するより、わが子の今しかない無邪気さ、かわいさを存分に味わってほしいなと思います。

ボクはといえば、これからもなるべく子どもが喜んでくれるものを描きたいですね。大人の立場で「ああしなさい、こうしなさい」っていう教育的絵本ではなく、教育に悪いくらいの絵本を、ね(笑)。

(取材・文/天辰陽子)

 

 

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Profile・はせがわ よしふみ

1961年 大阪府出身。『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版) で絵本デビュー。 ユーモラスでおおらかな長谷川ワールドを次々と生み出す。『ぼくがラーメンたべてるとき』で日本絵本賞と第57回小学館児童出版文化賞など受賞多数。絵本ライブなどを全国各地で開催。

【絵本作家インタビュー】一覧

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