テレビドラマ化もされた『池袋ウエストゲートパーク』で1997年にデビューを飾って以降、社会現象を取り入れながら描かれるさまざまな登場人物の心情が読者の共感を呼び続けている直木賞受賞作家の石田衣良さん。
ご自身の小学生時代と、これからの子どもたちへのメッセージをお聞きしました。
■本との出会いが一生を決めた
小学校2年生、7歳のときに本の世界に出会ってから、毎日図書館に通って、浴びるように本を読みました。SFも冒険ものも、片端から色々な作品を読み漁っていましたね。
もともと、僕は子どもの頃から独断専行タイプ。友達はいましたけど、自分の核を持つことが大事だと思っていて、親や友達に相談するというよりは、なんでも一人で考えて行動していました。
そんな子どもだったこともあり、中学生にあがる頃には人間性が固まっていて、「自分の人生、本の世界で生きていこう、小説家になろう」と決めていました。
■疑って考える目が養われたのは、読書のおかげ
本の世界は、幸せな出来事が起こったかと思えば、残酷で悲しいことも起きたりする。1冊のなかで良いことも悪いことも起こりますし、さまざまな登場人物の立場や心境で同じ物事も違った側面で見えることもある。
「世界って不思議だな、物事には両面があるのか、僕も見てみよう」それに気づいたのは、読書のおかげだと思います。
社会のきまりごとをそのまま鵜呑みにせず、「決まりだから守らなくてはいけない、破ってはいけない」ではなくて、「なぜこの決まりはできたのか」「誰のためにできたのか」「今の時代にあっているのか」など、疑って考える目が養われたんですね。
■子どもたちに必要なこと
いま、急速にAI(人工知能)が発達していますね。
「人間より多くのことを覚えられて失敗がない。子どもたちが大人になるときには、AIに多くの仕事を奪われるのでは」と不安になっている親御さんもいるかもしれませんね。でも、機械が人の仕事を奪うのはいまに始まったことじゃない。産業革命以降、ずっとそうですよね。
大切なのは、「自分の頭で考えられる人になる」ことです。
例えば、「これがAIの時代ですよ。人間のできることはなくなりますよ」ということを言う人がいたら、本当にそうなんだろうか?と疑って、調べてみる。
■子ども自身が「これは!」と思ったことを学び続けることが大事
はっきり言って、いまの世の中、大人も子どもも、受験のことしか考えていないでしょう。
勉強以外のことは、就職試験で役に立つボランティアのようなことをやっておけばいいと思っている人が多いんじゃないかな。
そんな見せかけだけのことをやっても身にならないし、自分の頭で考えられる人には到底なりませんから、やらないほうがいいですね。
お笑いでも、ラーメンでもいい。お子さん自身が「これは!」と興味を持ったことをとことん調べて、関係する本を読んだりして、コツコツ学び続けることが大事なんです。
コツコツ学ぶと、自分で考えて、いろんな方向からそれについて考えてみて、問題を掘り起こしたり、質問を考えたりするようになります。そうすれば、大人が言うことや決めたことが、全部正しいなんて、思わなくなります。
それこそが、AI時代の対抗策なんですよね。
石田衣良さんのことば
興味を持ったことをとことん調べてコツコツ学び続ける。自分の頭で考えられる人になろう!
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石田衣良(いしだ・いら):
1960年、東京生まれ。84年に成蹊大学卒業後、広告制作会社を経てコピーライターに。97年に『池袋ウエストゲートパーク』でオール読物推理小説新人賞を受賞し作家デビュー。2003年に『4TEEN フォーティーン』で直木賞受賞。06年『眠れぬ真珠』で島清恋愛文学賞。13年に中央公論文芸賞を受賞した『北斗、ある殺人者の回心』は、現在WOWOWでドラマ放送中。
撮影/黒石あみ(小学館) 取材・文/干川 美奈子