■イマジネーションを刺激する化石発掘体験
「主人公、だれにしようかなー」と思いながら、博物館内の大きくて迫力のある恐竜をいろいろ見て回ったのですが、福井県産の恐竜のコーナーの端に軽妙なポーズで展示されていた「フクイベナートル・パラドクサス」が、不思議と気になって仕方なくて。何度も戻ってきては見ちゃうんですよね。
今思うと、骨に一目惚れしたんだと思います。体重25キロ程度の小型の恐竜が、つま先立ちで踊っているかのようなイメージが湧いて、キャラクターがどんどん膨らんでいきました。
取材の2日目は、そのフクイベナートルも見つかった発掘現場の横にある「野外博物館」で、化石発掘体験をしました。ゴーグルをつけ、ハンマーとたがねで、発掘現場で採れた石をコンコンと叩く作業。気分はすっかり研究員。
私が見つけたのは、1億2000万年前の恐竜時代の植物の化石でした。木炭のようにキラリと黒光りするその化石が入った石を見つめて立っていると、まさにこの場所が恐竜の生きていた時代につながっているようで、恐竜たちの息づかいが聴こえてくるようでした。
■発掘したその場所の恐竜時代を絵に写しこみたい
普段はアクリルガッシュで描くことが多いのですが、今回は、ずっとやってみたかった版画やコラージュに挑戦してみました。
木版、紙版、葉っぱや木の皮、石ころや網など、手当たり次第いろんな素材を集めて実験してみました。自分の思ったとおりにならないかわりに、思いがけないことが起こる。それが面白くて、楽しくて。
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特に主人公のベナートルは、発掘したその場所で生きていた時代の跡を残せればと思い、発掘体験で持ち帰った化石を画材にしたんです。
まず、シリコンで化石の型をとって石膏で複製を作りました。それを、絵の具を塗った紙でくるんだりして化石の模様を紙にうつし、その紙を蝶ネクタイの形に切り取って、ベナートルの首元に貼りました。
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体には地元の伝統工芸の越前和紙を使いました。表面を削ったり、はさみで切ったりちぎったりして羽の感じを出したり。
和紙を使ったのは初めてですが、水をたっぷり使ってもよれたり毛羽だったりもせず、薄いのにとてもタフ。色もキレイにのるし、本当に素晴らしいな、と思いました。
■ユーモラスな恐竜たちを、大まじめに描いた絵本
恐竜博物館の取材で40体以上の恐竜全身骨格をじっくり観察し、人気のある恐竜だけでなく、どの恐竜もみんなそれぞれ素晴らしい、と思いました。
大まじめに恐竜の姿を描きながらも、それぞれの恐竜たちの個性をユーモラスに表現したい、その想いが本作『きょうりゅうオーディション』になりました。
それぞれの恐竜たちの得意なことを活かして上演されるミュージカル“きょうりゅうパラダイス”。弱肉強食のイメージとはまた別世界の恐竜絵本を楽しんでいただければと思います。
(取材・文/田中明子、著者近影・画材撮影/細川葉子)
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Profile・たしろちさと
東京生まれ。2001年に絵本作家としてデビュー。『ぼくはカメレオン』は2003年に世界7カ国語同時発売となる。『5ひきのすてきなねずみ ひっこしだいさくせん』で日本絵本賞受賞、『ぼくうまれるよ』でブラティスラヴァ世界絵本原画展入選。ほか、著書多数。