【あらすじ】
本を読むのが何よりも大好きなくろねこがいました。
家族のねこたちは、ロボット作りや、コックさん、ダンサーや、音楽家などをしていますが、このくろねこときたら、本を読んでいるばかり。
そんなある日、くろねこは町で小さな子どもの本屋さんを見つけて、お手伝いをすることに。
おもしろい本にくわしいくろねこですから、子ども達ひとりひとりにぴったりの本を教えてあげることができます。くろねこは評判になり、本屋さんは大人気店になりました。
ところが、ある日、大雨でお店が水びたしになってしまいます。何日もかけて元通りにしたものの、お客さんはぜんぜんもどってこなくなってしまいました…。
すっかり元気をなくして、ごはんはおろか、本さえも読めなくなってしまったくろねこですが…。
読書の楽しさを伝えると共に、好きなことを見つけ伸ばしていくことを応援する絵本です。
ISBN:9784097251057
定価:1,650円(税込)
【訳者・福本友美子さんインタビュー】
『くろねこのほんやさん』の訳者は、『としょかんライオン』や「おさるのジョージ」シリーズの翻訳者としても有名な福本友美子さんです。
ネコ好き&本好きの福本さんは、この絵本をとても気に入り翻訳してくださいました。
この絵本の魅力や、福本さんが翻訳を通して伝えたい想いをお伺いしました。
福本友美子(ふくもとゆみこ)
公共図書館勤務ののち、児童図書の研究・翻訳に専念する。訳書は「おさるのジョージ」シリーズ、『としょかんライオン』など多数。創作絵本に『図書館のふしぎな時間』がある。また各地で子どもの本に関する講演を行い、読書活動の普及につとめる。東京都在住。
まず、くろねこがかわいいです
Q. この絵本を最初にお読みになったとき、どんな印象を受けましたか?
A. 私はネコ好きなので、まずくろねこがかわいい、と思いました。
本がたくさん並んでいる場面が多いのもワクワクしましたし、全体に明るく軽快な雰囲気があるので、楽しい絵本だな、と思いました。
本を読むのって楽しいんだな、ということが伝わる絵本
Q. この絵本を訳したいと思ったポイントはどこでしょうか?
くろねこが、「ほんを よめば いろんなことが できるし、なんにでも なれる」という読書の喜びを見つけて、それをほかの子どもたちにも一生懸命に伝えようとするところです。私は図書館員出身ですから、くろねこの気持ちがよくわかります。読者の子どもたちにも、本を読むのって楽しいんだな、ということが伝わる絵本だな、と思いました。
若いアーティストの素晴らしい表現に注目
Q. 本作は台北在住の若いアーティストの絵本です。海外の若い作家さんの作品を訳すことについて、どんな思いがありますか?
A. 私は、板橋区立美術館で毎年開催されているボローニャ国際絵本原画展をよく見に行きます。そこでは海外の若い作家さんたちの出展作品をたくさん見ることができますが、年々、技法の多様性に驚かされます。斬新で個性的な作品がたくさんあって、とても刺激を受けます。この本の作者シンディ・ウーメさんも出品していますね。若いアーティストさんたちが、「絵本」をひとつの表現形式として自分の世界を伝えようとしていることは素晴らしく、翻訳者としてそのお手伝いができれば嬉しいと思っています。
シンディ・ウーメさんの絵は、絵を描くことが好きで好きでたまらない、という感じが伝わってきて、ほほえましいです。くろねこと同じように、好きなことを職業にしているんですね!
絵本の翻訳は、声に出して読みやすく、耳で聞いてここちよく
Q. 福本さんの訳文は、まるで目の前の子ども達に読み聞かせているような空間が感じられます。絵本を翻訳するときに必ずやってらっしゃること、また本作ならではの翻訳のポイントがあれば教えてください。
A. まだ自分で字が読めないうちは、絵本は誰かに読んでもらうものです。読者の子どもたちは、絵本の文章を耳から聞き、それを聞きながら自分では絵を隅々までじっくりとながめて、お話の世界にはいっていきます。
ですから私が絵本の翻訳でいちばん大切にしているのは、「声に出して読みやすく、耳で聞いてここちよく」ということです。訳文は、実際に子どもたちを前にして読み聞かせをするような感じで、何度も声に出して読みながら完成させていきます。絵との兼ね合いや、ページをめくったときの間合いがしっくりくるかどうかなど、声に出して読むことによってわかることが多いのです。
絵本の文章にはそれぞれの個性があります。淡々としていたり、きっぱりしていたり、おしゃべりな感じだったり、語り口はいろいろです。翻訳するにあたってまず最初の作業は、その本がどんな語り口なのかを感じ取ること。ここでもやはり、声に出して文章を読むことがとても大切です。私はまず原文を声に出して読みながら、じっくりと味わうことにしています。
本作を読んだ印象は、難しい言い回しや奇をてらったところがなく、わかりやすい言葉遣いで、とても素直に書かれているということでした。まじめで一生懸命な主人公の性格をそのまま表しているような語り口が、読者にも伝わるように訳したいと思いました。
好きなことを見つけて伸ばしていくことを応援する絵本に
Q. この絵本を通して、子ども達にどんなことが伝わるといいな、と思いますか?
A. 子どもたちには、自分の好きなことや得意なことを見つけて、それを伸ばしていってほしいといつも願っています。それが他の人たちとは違っていても大丈夫。好きなことをやっているときは誰でも幸せになれますからね。これから自分の道を進んでいく子どもたちを応援するような絵本になればいいな、と思っています。
(聞き手/田中明子)