ぴっかぴかえほんシリーズ、『カワセミとヒバリとヨタカ』(4月29日発売)の作者・あべ弘士さん。
ユニークな観察眼で描かれる、愛嬌たっぷりの動物たちは、どうやって生み出されているのでしょうか。
活動の拠点・北海道の旭川を訪ねました。
■渡り鳥のスケッチ
夜中の2時に旭川を車で出発して、1時間半かけて日本最大のマガンの寄留地である沼に行ったことがあります。
マガンって、大きいんですよ。それがなんと8万羽! 東の空があかね色になり夜明けを迎えると、いっせいにバババババッと水面を蹴って飛び立つんです。
沼は激しく波立ち、地響きのような轟音のなか、空がマガンで覆われるという光景は、想像を絶するものでした。僕はもう、圧倒されながらも必死になって、大きなスケッチブックに、バババババッとその興奮の瞬間を描きまくりました。
手元を見ている暇なんてなかったですよ(笑)。
■北海道の旭山動物園で飼育員をやっていたときのこと
旭山動物園で25年、飼育員をやっていた頃、地元の子ども達がよく写生にやってきたのですが、「飼育員さん、動物が動いて描けないから、じっとさせて」なんて頼まれることがありました(笑)。
そういうときは、「“うごくもの”と書いて“動物”なんだから。動くところをよーく見て描いたらいいんだよ」と答えるんです。
そうしたら、あの子ら、いい絵を描くんだよなぁ。特に、小学校低学年の子達の絵は、のびのびしていて、目のつけどころや描き方がおもしろくて、とても良かったですね。
僕にとって動物の絵は、目で描き、手触りで描き、においで描き、気配で描くもの。
それは、飼育員をやっていたときに培われました。動物の世話をして、エサをやって、うんこを掃除して、死んだら解剖して、骨格標本をつくるところまでやってましたよ。
忙しかったから、スケッチブックにスケッチする、なんてことは一度もなかったけれど、見ること触ることは、描くことと同じだったんですよね。
例えば、2階からキリンにエサをやっていると、間近で顔を観察できるでしょ。あー、キリンのまつ毛はこんな風に生えているのか、キリンのツノの上はこうなっているのか、なんて。キリンと心を通わせながらだから、触っても怒んないしね(笑)。
動物園の飼育員という恵まれたステージで、僕は鉛筆を持たずに、どんどん描いていったのだと思います。
そうした記憶の宝箱のようなものが僕の体の中にあって、今、絵を描くときには自然とその宝箱から取り出されてくるんですよね。
■ノンフィクションとフィクションを融合させた世界観
今回の絵本『カワセミとヒバリ』を描くきっかけになったのは、僕のアトリエの窓から外を眺めているときのことでした。
窓の外には小川が流れているのですが、その川のそばの木の枝にカワセミがやってきましてね。見ていると、カワセミは、高飛び込みの選手みたいに、シュプンッとダイブして、見事に川魚を捕ったのです。
空高くではヒバリが鳴いていました。その一部始終がとてもおもしろくて、描きたい気持ちをくすぐられたんです。
僕が絵本で描きたいのは、リアルな動物の生態を踏まえながらも、フィクションの物語を融合させた世界。
ヒバリが実際に川に飛び込むなんてことはないけれども、もしもそうしたならば、と想像してみるとおもしろい。
25年間、夢中になって飼育員をやってきた自分だからこそ描ける「動物寓話」は、今後も描いていきたいですね。
Profile・あべ ひろし
1948年北海道生まれ。1972年から25年間、旭山動物園に飼育員として勤務。その後退職し、絵本作家に。自然に対する知識と愛情に裏打ちされた作品は、多くの読者に愛されている。『あらしのよるに』で講談社出版文化賞絵本賞、産経児童出版文化賞JR賞、『ゴリラにっき』で小学館児童出版文化賞、他多数受賞。