絵本『ぼくのきんぎょをやつらがねらう!』(発売中)の作者・武田美穂さん。絵本を描くときに大切にしていることとは……!?
ぴっかぴか絵本シリーズ
『ぼくのきんぎょをやつらがねらう!』
さく:武田美穂
小学館・刊
■「ますだくん」に届いた、段ボール箱いっぱいの手紙
絵本の文章は、リズム感をとても大事にしています。
今回のミニ絵本『ぼくのきんぎょをやつらがねらう!』も、実際に声に出しながら文章を考えているんですよ。
この男の子にとっては、大事なものが金魚ですけど、これ、金魚じゃなくてプラモデルでも、ゲーム機でも、成立する話ですよね。
夢中になり過ぎてお母さんから怒られる…って子どもにはよくあることだと思います。
実は、このお話、デビュー当時に考えたネタをもとにしているんです。でもずいぶん変えてますけどね。
デビュー当時は今と違って、絵本は私が生み出す「作品」なのだという意識が強かったんです。それが変化したのは、『となりのせきのますだくん』(1991年)を発表したときですね。
子ども達から段ボール箱いっぱいの手紙をもらったんですよ。そのときに、読んでくれる子ども達のために絵本をつくろうって強く思ったんです。
それ以来ずっと、その気持ちは変わらないですね。
■子ども達の反応が、元気のもと
絵本を描くときは、「子ども達に楽しんでもらいたい」って、いつも考えます。
でも、頭のなかで考えるよりも、生の声を聞くのがいちばん。子ども達がたくさん集まる、イベントやワークショップをするのが大好きなんです。
そこで自分の絵本を読み聞かせして、それが子ども達に受けたら、もう嬉しくって「勝った!」って心の中でガッツポーズですよ。
私ね、お話の中にナンセンスなシーンを盛り込むのが大好きなんですよ。例えば、『ありんこぐんだん わはははははは』は、どんどんナンセンスがエスカレートしていっちゃうお話です。
そこを読んだときに、子どもが「ありえねー!」なんて言って笑ってくれると、「勝った!」って思いますね。
このあいだ『なぞなぞフッフッフー』を読んだときは、笑い過ぎて椅子から転げ落ちちゃった子がいたんです。
もう、「これで明日から、またがんばれる!」って思いましたね(笑)。
■絵本を通じて、「明日は明るいよ」って伝えたい
今は、世の中の情報量がものすごく多くて、よいことでも悪いことでも、子どもが見なくてもいいものまで見えてしまったりしますよね。
そのなかには暗いニュースや、「どうせ人間なんて…」って思ってしまうような話題もあります。
でも、私の絵本では、すてきな明日やよりよい未来とか、これから成長していく子ども達によいものを提案したいんです。
「明日は、明るいよ」「友達はみんないいやつだよ」ということを伝えたい。楽しんでもらいたいなって思います。
昔と今では、ずいぶん違っていて、例えば20年前はパソコンなんてなかった。でも、昔と変わらないところもある。
『となりのせきのますだくん』なんか、25年も前の本ですけど、いまだに増刷されていて、子ども達から、「自分のとなりの席の子と同じだ」とか「となりの席の子とこんなことがあった」なんて手紙が来るんです。
今の子達にもちゃんと共感してもらえているんですね。子どもの基本は変わってないんだな、って思います。
(写真/平林直己 取材・文/天辰陽子)
Profile•たけだ みほ
1959年東京都生まれ。1987年『あしたえんそく』(クレヨンハウス絵本大賞 最優秀賞)でデビュー。『ふしぎのおうちはドキドキなのだ』で絵本にっぽん賞、『となりのせきのますだくん』で絵本にっぽん賞、講談社出版文化賞絵本賞、『すみっこのおばけ』で日本絵本賞読者賞、『おかあさん、げんきですか。』で日本絵本賞大賞、読者賞を受賞。ほか『ありんこぐんだんわはははははは』、『オムライス、ヘイ!』など著書多数。