絵本『ぼく、ドジオ。』の作者は、ベストセラー絵本『100かいだてのいえ』の、いわいとしおさん。メディアアーティストとしても数多くの作品を生む、創作の原点とは…?
ぴっかぴか絵本シリーズ
『ぼく、ドジオ。』
さく:いわいとしお
小学館・刊
■ドジオのモデルは、子どもの頃の僕です
僕の絵本、『100かいだてのいえ』は、娘が小1のとき、くり上がりの計算がなかなか覚えられなくて、そのとき思いついたアイデアがもとになっています。
『どっちがへん?』も、娘との遊びの中から生まれたもの。
今回のミニ絵本『ぼく、ドジオ。』は、それとは違うけど、身近なところから発想が生まれているのは同じですね。
主人公・ドジオのモデルは、子どもの頃の僕です。
3人の姉から「ドジオ」ってあだ名をつけられたのも本当ですし、あごを縫ったのも本当。実際ドジで、毎年、何かしらケガしていました(笑)。
今回、そんなことを思い出しながら、待てよ、そもそもドジって何だろう? って考えたんです。
何もしなければドジもしない。自分が考えた方法でいろいろやってしまうから、結果として失敗して、それがドジになるんだ、と気がついたんですね。
そのとき、これは絵本の物語にできそうだな、と思えたんです。
■母親の宣言「もうおもちゃは買いません」
子どもの頃、ある日突然母親が「もうおもちゃは買いません」って宣言したんですよ。
その代わりに、工作の本や材料を与えられました。ものづくりに目覚めて、自分でたくさんのものをつくって、それが今につながっています。
でも、母がどうして突然そんなことを言いだしたのか、理由はわからなかったんです。
母に聞いても覚えていないという(笑)。
ただ、今回『ぼく、ドジオ。』を描いて、わかった気がします。
母は、僕のドジを心配していたんでしょう。今、自分が親になってわかりますが、親って喜びもあるけど、心配ばかりですよね。
この子はこんなんで将来大丈夫かしら…なんて。
それで、僕は運動はダメだけど、お絵かきや工作は好きだったから、母はそこを見ていて、その適性を伸ばそうとしてくれたんでしょう。
ちなみに、ドジオが飛ばしている凧は今回のためのオリジナルデザイン。実際につくってみて、よく飛ぶことは確認済みです(笑)。
■子どもの夢中を軽視しちゃいけない
今は子どもの遊びが多様化しているし、「もうおもちゃは買いません」なんてなかなか言える時代じゃないですね。
でも、何かを手づくりする楽しさ、思いついたものを実現したときの喜びは、何ものにも代えがたい。
失敗していいんです。うまくいかないのを解決できたときの達成感がまた気持ちいいんだから。
子どもたちにもそれを味わってほしいですね。
子どもと接していて思うのは、子どもが何かに夢中になっているときは、世界と向き合っているんだ、っていうことです。
興味を持ったものからつながって、世界が広がっていく。
それは大人から見たら何だかわからないようなもので、つい「もうごはんだからやめなさい」「もう行くよ」と止めてしまいそうになりますけど、そのときの子どもの夢中を軽視しちゃいけないんです。
興味の対象は、成長とともに変化していくけれど、「この世界はおもしろい」と感じることは、大人になっても続いていくものですからね。
将来のためにもその瞬間を大切にしてあげたいと思うんです。
写真/平林直己 取材・文/渡辺朗典(本誌)
Profile•いわいとしお(岩井俊雄)
1962年、愛知県生まれ。1985年、筑波大学芸術専門学群在学中に、第17回現代日本美術展大賞を最年少で受賞。テレビ番組「ウゴウゴルーガ」、三鷹の森ジブリ美術館の映像展示「トトロぴょんぴょん」なども手がけるメディアアーティスト。