笑顔で挨拶すれば距離が縮まる【絵本作家インタビュー】石津ちひろさん×松田奈那子さん

石津ちひろさんのリズミカルな文章と、松田奈那子さんのやわらかい絵で描かれる、『あいさつって たのしい』。

ともに海外居住経験のあるお2人の「挨拶」への思いや、幼少期のことを伺いました。

ぴっかぴかえほん
『あいさつって たのしい』
著・文/石津ちひろ  著・絵/松田奈那子 
2018年2月26日発売・小学館刊

(詳細は、こちらのページをご覧ください)

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■あまえんぼうの妹としっかり者の姉?

石津 私、1年生のころは、人前ではあまりしゃべれなかったんですよ。内気で、おとなしくて。ややいじめら れっ子だったかもしれない。

本はたくさん読んでいたから、人より漢字は読めるし、ものは知ってるので、先生には気に入られるんだけど、そこが面白くないと思われたみたいで。ちょっといじわるな子がいて、筆箱隠されたりしたの。

でも、それを友だちに話したら、「じゃあ今度そういうことがあったら私が守ってあげる」って言ってくれて。じゃあ大丈夫だ、と思って、登校拒否にもならなかった。ずっと助けられてたってことですね。

松田 私は正反対でした。うちは4人姉妹で、私は長女なんですけど、おしゃべりだし、妹たちの世話も焼きたがりで、絵本を読み聞かせたり、まだ字が読めないころは自分でお話を作って聞かせたりしてました。

学校で意地悪されてる子がいたら、「やめなよ!」って助けに入って結局標的になっちゃったり…。

石津 いつも、松田さんとお話ししてると、本当はすごい年齢差があるはずなのに、私はあんまりそれを感じないの。今わかった。それは、しっかり者の長女キャラとあまえんぼうの妹キャラでバランスがとれてるからかもしれないですね(笑)。

■海外には、行ってみないとわからないことがある

石津 松田さんといろいろお話しするようになったのは、松田さんがモロッコに行くことになったときからですよね。
(編集部注:松田さんは2015~2017年の2年間、北アフリカのモロッコに滞在。このインタビューは一時帰国の際に行われました。)

松田 石津さんが、以前アルジェリアで暮らしてらしたことがあるので、いろいろ相談させていただいたんです。行きたい気持ちはあったんですけど、過激派による事件が次々に起きていた頃なので、イスラム圏の国で暮らすことに不安もあったんです。

石津 それで私が「絶対いい経験になるから」って背中を押したのよね。アラブの人たちは、すごくやさしいの。自分が出会った人に親切にすることが自分のためでもある、って思っていて、それが身についてる。

松田 そんな裕福じゃない家が多いんですけど、すっごくいっぱいごはんを作って大歓迎してくれたりとか。そんなの、実際に行かないと知らないままだから。

石津 ひとつの事象を見て判断するのは怖いことよね。行って接してみないとわからないことってあるものだから。

■モロッコで感じる、挨拶の大切さ

松田 モロッコへ行って感じたのは、人の温かさ。私は、言葉も話せないまま行ってしまったんですが、モロッコの人は、言葉が通じなくても、わかろうとしてくれるんです。向こうの人にとっても、東洋人は慣れていないので、初めは怖がられるんです。

でも、勇気を出してこちらからニッコリ挨拶すると、一気に距離が縮まるんですね。挨拶って第一印象だし、本当に大事なんだな、と思います。

石津 出会いの挨拶と「ありがとう」をニッコリしながら言えれば、その人と半分ぐらい繫がれるように感じますね。外国に行ったときもそうですけど、新しい環境に入ったときにすごく大事ですよね。1年生って、初めて会う人ばかりだから、同じですね。

松田 今回の絵本に出てくる挨拶ってどれもが、まさに私がモロッコへ行ってはじめに覚えた言葉たちなんです。だから今回の文章をいただいたときに、ああこれはすごく描きたい、って思いました。

■本は別の世界への入り口。世界は広いって知ってほしい

松田 小学校・中学校と、学校と家の行き来だけみたいになって、私はどんどん視野が狭くなっちゃう時期があったんです。絵本を通して伝えたいのは、ここ以外の場所がある、ということ。本を開くと、別の世界へ行ける。目の前に広がる世界が変わりますから。

石津 本は別の世界への入り口ですね。それが逃げ場なのか楽しみなのかはそのときそのときで違うけれど。世の中、何かあったときに、視野が狭くなるってすごく残念なことじゃないですか。

別の世界を知っていれば、もし今いるところで嫌なことがあったとしても、世界は広いって考えられる。そういうことって大事だと思います。

(撮影/平林直己 取材・文/渡辺朗典)

Profile・石津ちひろ(いしづちひろ)
1953年、愛媛県生まれ。絵本作家、詩人、翻訳家。3年間のフランス滞在を経て、執筆に従事。『なぞなぞのたび』(フレーベル館)でボローニャ児童図書展絵本賞、『あしたうちにねこがくるの』(講談社)で日本絵本賞、『あしたのあたしはあたらしいあたし』(理論社)で三越左千夫少年詩賞を受賞。ほかの作品に『まさかさかさま動物回文集』(絵・長新太/河出書房新社)、訳書に『リサとガスパール』シリーズ(ブロンズ新社)、『あおのじかん』(岩波書店)ほか多数。

Profile・松田奈那子(まつだななこ)
1985年、北海道生まれ。画家。絵本作家。個展、グループ展にて作品を発表しながら、絵本制作、広告・書籍の装丁画や挿絵を手掛ける。子ども向けの造形教室やワークショップも多数開催している。第1回白泉社MOE絵本グランプリを受賞。絵本作品に『ちょうちょ』(文・江國香織/白泉社)、『くらべっこしましょ!』(文・石津ちひろ/白泉社)、『やさいぺたぺたかくれんぼ』(アリス館)、『こびん』(風濤社)など。2015年~2017年の2年間北アフリカのモロッコで生活。体験を絵日記「モロッコ滞在帖」に記録。

【絵本作家インタビュー】リスト

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