『たんぽぽふうたろうと7ふしぎ』は、個性豊かな妖怪たちが登場する絵本です。
主人公・たんぽぽふうたろうが、妖怪たちと協力しながら、知恵をつかって大だぬき退治に挑みます。
本作には、作者・くりはらたかしさんの、幼少期からの思い出とこだわりがたっぷり詰まっていました。
ぴっかぴかえほん
『たんぽぽふうたろうと7ふしぎ』
作/くりはらたかし
2018年11月20日発売・小学館刊
■自分が描いた絵で親が喜ぶのが嬉しかった
今回、絵本のお話をいただいて真っ先に考えたのは、子どものころ好きだった要素を入れ込みたいということでした。自分の場合、妖怪やおばけ、摩訶不思議なものに惹かれていたので「これだ!」と。
年長のころ、保育園の近くのお寺で肝試しをした体験をもとに、『おばけのはなし』と題した絵本を描いたことがありました。改めて見直してみたら『たんぽぽふうたろうと7ふしぎ』を彷彿とさせるキャラクターがすでに登場していました。好きなもの、描きたいもの、なんだか今とあんまり変わっていないみたいです(笑)。
そういえば、昔からお気に入りのものやシチュエーションを作品に閉じ込めたい=コレクションしたいという気持ちが強く、このときも本当はおばけやしきを作りたかったんだと思います。でも、実際はそんなことできないから、絵に描いて満足していたんでしょう。
実家にはそんな幼少のころの作品がたくさん残っています。誰に見せるつもりでもなかったんですが親が喜んでくれたり、いちいちほめてくれたりするのが嬉しかったんでしょうね。
保育園から小学校低学年のころの作品たち。メモ用紙や封筒の裏に書いたものをご両親がきれいに製本してくれています。
オリジナルキャラクターひげくん
マッチョのひげくんが活躍するオリジナルストーリーは、しっかりオチもついていて読みごたえバツグン。
■目指しているのは昔の漫画のおおらかさ
自分で本を読めるようになったころ、図書館で長新太さんの『なんじゃもんじゃ博士』(福音館書店)を見つけて、そのおもしろさに頭を殴られたかのような衝撃を受けました。展開の支離滅裂さといい、シュールな笑いといい、それまで読んだどの本とも違っていました。
実は、小学3年生のころご本人からサインをいただいたことがあるんです。ご自宅を訪ねて、玄関先で失礼するつもりがお茶までごちそうになってしまって。緊張しすぎて何をしゃべったかは一切覚えていません…。本がたくさん積んであったことと、優しくしてくださったことだけが記憶にあります。
あこがれの作家、長新太さんにもらった宝物。当時くりはらさんは陶芸教室に通っていて、自作の博士人形をプレゼントしたくて門を叩いたのだそう。純粋な気持ちが胸を打つエピソードです。
自分では、自分の作品が絵本と漫画、その中間にいられたらいいなと思っています。『たんぽぽふうたろうと7ふしぎ』も、フキダシがあったり、1ページにいくつもシーンがあったり、漫画っぽく読めるスタイルを目指してみました。ぽんぽんとリズムよく事件が解決していく様子が、ドミノ倒しみたいで気に入っています。
いちばんのお気に入りキャラは、「どくろ草」ですね。弱そうなところとか、頑張ってカタカタ言っているのに、「ふーん」で片付けられちゃうあたりが(笑)。でも、彼がしゃべり出すタイミングで物語が始まりますし、妖怪と人間をつなぐストーリーテラーの役割を果たしている。実は、重要なキャラなんですよ。
他には、『のらくろ』や『墓場の鬼太郎』、手塚治虫の初期作品も大好きでした。昔の漫画って、ちょっと抜けているというか、説明しすぎないよさがあったと思うんです。
そういう大らかさを今回の絵本でも出したくて、主人公や妖怪たちの細かな背景はあまり言及せずにいます。子どもたちには、あれこれ想像しながら読んでもらえたら嬉しいです。
■子どもたちは遊びを生み出す天才!
うちの娘たちも絵を描くのですが、最近上の子から「将来パパと同じような仕事をしたい」ということをなんとなく言われるようになりました。
あまりあれこれと口出しするのもよくないと思うのですが、「絵を描くときはよく観察したほうがいいよ」と言って、図鑑や資料を貸してあげるようにしています。観察して描いたうえで「変になることを恐れずに描きな、逃げずにやってみな」と言っています。
たとえば、人の顔をしっかりみて描こうとすると、鼻の下に線が2本入ったりして「変なの」ってなるじゃないですか。ぼくはそれが嫌で絵から逃げた時期があったので、それは乗り越えてほしいですね。
自分の作品は「子どもの視点が多いですね」と言われることがありますが、小さいころから一人遊びが得意なほうだったので、それが関係しているのかもしれません。
先日、下の子の保育参観に行ったら、みんなしてロールパンの中身をくりぬいて夢中で食べていたんです。それがおかしくて! 子どもは、遊びを生み出す天才ですよね。
娘たちを見ていても、タイルの線を踏まずに歩いていたりと“自分だけの楽しみ”みたいなものを発明していて、実に楽しそうです。自分の作品もそうでありたいなと思います。
(取材・文/和田明子 撮影/平田貴章)
Profile・くりはらたかし
1977年、東京生まれ。1999年『アナホルヒトビト』でアフタヌーン四季大賞受賞、同時に漫画家デビュー。イラストレーター、アニメーション作家としても活躍中。私生活では、10歳と5歳の女の子の父親。趣味は、古書店探訪とひなびた観光地めぐり。
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