ギャグまんが「あさりちゃん」で知られるまんが家・室山まゆみ先生の、最初の作品「吸血鬼」を、「あさりちゃん」公式ホームページ(2019年8月1日リニューアル)にて期間限定で特別公開します。
この作品は、これまで一度も公表されたことがなく、今回が世界初公開となります。
■「室山まゆみ」は姉妹の共同ペンネーム。大ヒット作「あさりちゃん」はギネス世界記録にも認定
室山まゆみ先生は、熊本県出身の姉妹まんが家です。姉・室山真弓、妹・真里子、2人の共同ペンネーム「室山まゆみ」で、1976年「別冊少女コミック」(小学館)の「がんばれ姉子」でデビューしました。
その後、1978年に「小学二年生」で連載スタートしたギャグまんが「あさりちゃん」が大ヒット。連載は「小学一年生」~「小学六年生」、「コロコロコミック」、「ちゃお」と広がりました。
1982年にテレビアニメ化、1985年には第31回小学館漫画賞を受賞。そして2014年、コミックスの100巻到達を機に35年間の連載は完結。同年「二人組による1コミックシリーズ最多発行巻数(女性作家)」として、ギネス世界記録に認定されました。
■デビュー前の作品「吸血鬼」を熊本で発見
室山まゆみ先生がまんがを本格的に描き始めたのは中学生時代。これまでデビュー前の作品は公開されたことがありませんでしたが、このたび、熊本の先生の書庫から最初期の原稿が発見され、今回の特別公開となりました。
公開された全10ページのまんが「吸血鬼」は、1969年、先生が中学三年生と中学一年生だった時の初めての合作です。それまでは姉妹で別々に作品を描いていましたが、「一人で描いていると時間がかかる。いつまでたっても終わらない。二人で描けば早い、どんどん投稿できる」との思いから、合作がスタートしました。
「まんがの描き方、原稿用紙の使い方も知らなかった」という室山先生。某少女まんが誌のまんがスクールに投稿した、さてその結果は?
「もちろん入賞するわけないです。それでも審査員の方からお手紙をいただいて舞い上がったことをおぼえています」(室山まゆみ先生)
残念ながら落選でした。しかし数多い投稿作品の中で、審査員から手紙を送られるとは、その実力が認められた証拠でしょう。
■まんが評論家の竹熊健太郎さんは、「中学生にして、これはもう「作家」の仕事!」
今回、まんが評論家の竹熊健太郎さんが「吸血鬼」を読みました。
「これはすごい! 中学生にして、これはもう「作家」の仕事です!」と竹熊さん。
「このまんがは、自分を投影した主人公二人のかけあいで話が進みます。中学生ながら、自分たちの分身であるキャラクターを、どう操作すれば読者が喜び、笑い、驚くのか、そのメカニズムがわかって描いています。つまり、既に「作家」になっているのです」
「代表作「あさりちゃん」は、あさりとタタミの姉妹のやりとりで話が展開しますね。あさりとタタミは作者自身の投影ではありませんが、かけあいでストーリーを盛り上げ、笑わせているのは同じです。「吸血鬼」に通じるものがあります」
「そして重要なのは、このかけあいを楽しんでやっていること。決してテクニックではなく、キャラクターを動かして読者を喜ばせることを、作者が楽しんでいる。その初心を、お二人は50年間ずっと持ち続けているのだと思います。だからこそ、50年にわたって姉妹で児童まんがを描き続けるという、まさにギネス級の偉業を達成できたのでしょう」
■稀少な修行時代の作品「吸血鬼」は、室山まゆみ先生のルーツ
「吸血鬼」以後も、姉妹合作での投稿が続きました。一年後、ギャグまんが「決死の対決」(八等身のキャラと二等身のキャラがバレーボールの試合をする話とのこと。原稿は紛失)で「努力賞」に入賞。賞金は3000円でした。2か月後の作品で賞金5000円、そして翌年の終わりに佳作入賞で2万円獲得。これで室山姉妹は本気でまんが家になろうと決意します。
姉の真弓先生は、高校卒業後、熊本を離れて東京の会社に就職。その2年後に妹の真里子先生も高校を卒業して上京し、姉妹は同居して合作によるまんが家デビューを本格的にめざします。そして2年目にデビューが実現。
とんとん拍子のまんが家デビューのため、室山まゆみ先生の「修業時代の作品」は大変稀少です。そのため、今回の「吸血鬼」の発見と公開は、ファンにとって大きなニュースです。
「下手クソですが、当時の実力はこんなもん。それでも精いっぱいていねいに描いています。わたし達のルーツともいえる作品です」(室山まゆみ先生)
50年を経て初めて公開される、初々しいまんが。作品のすみずみに残る作家のルーツを探すのも、楽しみのひとつとしてお勧めです。
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