この絵本で漢字に親しんで【絵本作家インタビュー】中川ひろたかさん×きくちちきさん

みんな生きている

絵本『みんな生きている』は、1年生で習う漢字80字がすべて出てくる絵本です。

文を担当した中川ひろたかさんと、絵を担当したきくちちきさん、初めてタッグを組んだお二人に、創作の裏側を伺いました。

みんな生きている

ぴっかぴかえほん
『みんな生きている』
文/中川ひろたか  絵/きくちちき
2017年8月30日発売・小学館刊

(詳細は、こちらのページをご覧ください)

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■野生動物が身近にいたきくちさん、かなりふざけた子どもだった中川さん

――お二人が1年生のときはどんなお子さんでしたか?

きくち 僕は小さい頃は北海道に住んでいました。絵を描くのは好きでしたけど、絵本はまったく読んでいませんでしたね。大人になってからです、絵本に興味を持ち始めたのは。

ある骨董市でモンヴェルという作家の絵本を見つけたときに、「100年前のものを100年後の自分がこんなに感動できるんだ」と衝撃を受けて、僕も絵本を描きたいと思い、そこから描き始めたんです。

動物や自然を描くのが好きなのは、北海道で育った環境からきているのかな。普通に野生の動物を見かけましたし、動物が身近な存在だったので、人間と動物が近い感覚で絵本を自然に描いているのかな、という気がします。

子どもの頃って、人間と動物の境界があんまりないですよね。そこにいることを自然に受け入れるというか。

中川 すごいね。スケールが違う。僕なんか、身近な生き物っていったらザリガニくらいだもん(笑)。

僕の場合は、小学生時代の全体にそうなんだけど、家を出るときに玄関先で「おまえ、ふざけすぎんじゃないよ」って必ず言われるような、かなりふざけてる子だったんだ。

学校へ行く途中に人んちの石段に上ってハーモニカを吹いたりして、みんながそれをはやしたてたり。よく遊んだ。自分でゲームをつくって1人でも遊んでたよ。プロ野球12球団分の選手のめんこをつくって、それをトーナメント方式で戦わせて優勝チームを決める、というオリジナルゲーム。

子どもって、何でも自分で遊びをつくっちゃうんだよね。それは、昔も今も変わらないと信じたい。

■漢字80字すべてを使って、ちゃんとストーリーがある

――今回、80字の漢字を使うというお題、いかがでしたか?

中川 どんな絵本の文章を考えるときも、映像がページごとに浮かばないとダメだと思っていて。それがないことは絵描きさんに失礼だと思うのが常にあってね。だから今回も、文字を並べながら映像をつくっていきました。

きくち 初めて文章を見たときは、80字の漢字を使いながら、ちゃんとストーリー性があることに、もうビックリして。と同時に、描いてみたいという気持ちがわーっとあふれ出てきました。

僕の今までの作風とは全然違ってたんですけれど、それが逆にすごくおもしろいなあと思いまして。最初は言葉をどういうふうに選んでいったんですか?

中川 最初は、漢字を分類したの。数字、方向、自然物、生き物、っていうふうにね。それをパズルのように組み合わせていったんです。

僕も、こういうのは初めてでしたよ。だじゃれみたいな言葉遊びとはまたちょっと違って、パズルを解いていくような感じでおもしろかった。使ったことのない脳を使った感じで、これはこれで、楽しかった。

楽しかったから、2年生も、何なら6年生までやるよって言ったら、全部で1006字もあるって聞いて、そりゃ無理だ、ってね(笑)。すぐ引っ込めた。

■いい絵が描けるときは、自然と物語の中にいる

――中川さんは、きくちさんの原画を見て、いかがでしたか?

中川 すばらしいですよ。とっても元気があって、おもしろい。僕が文章でイメージしている映像なんて、ほんのちっぽけなことなので、それをこんなふうに! というのは、本当に驚きでした。

5人家族が寝ているシーンとか、考えもつかないもん。普通に2段ベッドで上と下に寝ている、とかイメージしてたから。森と林のページも、僕だったらきっと分けちゃうんじゃないかな。

こういうふうに、森も林もいっしょくたにしちゃったっていう潔さがスゴいなと思った。あがってきた原画を見る瞬間がいちばん楽しみ。今回も、きくちさんの人柄がそのまんま出ていて、のびのびとしたものになったと思うなぁ。

――『小学一年生』で掲載したミニ絵本のときと今回の書籍絵本では、まったく違う絵になりましたね。

きくち ミニ絵本のときは、いただいた文章のすばらしさに驚いていて、新鮮な気持ちとどういう風に表現しようかと悩みながらも楽しんで描いていました。書籍絵本のときは、新たに描き変える難しさというよりも、描き変えられる楽しさがまず最初の気持ちでした。

実際いろいろ悩みましたが描いていて楽しかったですし、描き方次第で、物語が色々な方向へ広がるものだなと思い描いていました。

絵を描くときは下書きをしないので一発勝負の緊張感は常にあります。ただ緊張感は最初だけで何枚も何枚も描きながら少しずつ物語の中に入っていきます。

いいものが描ける時はとても力が抜けていて自然と物語の中にいる時なので頭は何も考えずに自然と筆が動いています。言葉にするのは難しいですね。ただいい絵が描けたときはパッと絵が明るくなります。その時の開放感、嬉しさがあるので何枚も何枚も描けるんだと思います。

■「自分でも80字を使った絵本をつくってごらん!」

――1年生の2学期から漢字の学習が始まります。

中川 絵本を見ながら、漢字に親しんでもらえたら嬉しいかな。それで、自分でも80字を使った絵本をつくってみてごらん、てね。むずかしいぞぉ(笑)。

きくち 1年生の漢字でぼくが好きなものはタイトルにもある「生」です。「いきている」ということと「うまれる」ということが同じ漢字で表されるというのは素晴らしいなと思います。そのおかげでこの絵本も生まれたのかなと思っています。

撮影/細川葉子 取材・文/田中明子

 

中川ひろたか

Profile・中川 ひろたか
シンガーソング絵本ライター。5年間保育士として勤務後、バンド「トラや帽子店」を結成。「世界中のこどもたちが」など名曲を多数手がける。1995年『さつまのおいも』で絵本作家デビュー。『ないた』(絵・長新太)で日本絵本大賞受賞。ほか、著書多数。

Profile・きくち ちき
2012年、『しろねこくろねこ』(学研)で絵本作家デビュー。同作は2013年ブラティスラヴァ世界絵本原画展(BIB)にて金のりんご賞を受賞し、世界的にも注目される若手絵本作家。一児の父として子育てをしながら、絵本製作や全国各地での個展に大忙しの日々を送る。

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