■レイチェル・カーソンみたいなおばあでありたい
今年は孫も生まれて、やっぱりまた変わりましたね。孫って、なんかこう、中心から一周距離があるから、小さい命に対して良い意味ですごく客観的になれて。
この絵本は、そういう気持ちがストレートに投影できたな、と思うんです。
海の近くの自宅兼アトリエは、穏やかで心地良い空気が流れる。
レイチェル・カーソンの『センス・オブ・ワンダー』をよく読み直すんです。「ある秋の嵐の夜」という書き出しで、まだ赤ちゃんの甥のロジャーを毛布にくるんで嵐の海に降りていくという一節があって・・・・・・。
「ある秋の嵐の夜、わたしは一歳八ヶ月になったばかりの甥のロジャーを毛布にくるんで、雨の降る暗闇のなかを海岸へおりていきました。」
―――『センス・オブ・ワンダー』レイチェル・カーソン著 上遠恵子訳
親と違って一周距離がある孫に対して、私がどういうおばあでありたいか、といったら、レイチェル・カーソンみたいでありたいと思うんです。海の神の荒ぶる様子を子どもと見に行って、何かを教えるんじゃなく一緒に興奮するためにそうする、っていうね。
この子を風の中に連れて行きたい、とか、一緒にあんな夕日の見えるところに行って黙って一緒に光を浴びてたい、とか、そういう感じですよね。
レイチェル・カーソンは、「知るよりも感じることの方が何倍も大事だ」とハッキリ言っていて、それは作家であり、海洋生物学者でもある知の人だから説得力のある言葉だとは思うんですけど。特に子どもの時に、感覚で自分や自分を取り巻く命を歓びとして感じ取る、っていうことは、その子の生きる勇気とか励ましになる。だから、一番身近な孫に対して思うし、そしてどの子もそうあって欲しいな、って思います。
自分があって、社会があって、世界があるって、くっきり境があるわけじゃないけど、社会ってものの中で悩んじゃったりとか、気持ちが行方不明になっちゃったときに、「まあいいや!」って思えるかどうか。森羅万象に対して、紙ひこうきを飛ばして返ってくる答えというのは、迷いや悩みをもったときに大丈夫だって思えるベースになると思うんです。
私はそれを感じてるから、子ども達も一緒にそれを体験すればきっと感じてくれるだろう、と信じています。
■8歳の作曲家と通じた共通の感覚
今回ご縁があって、この絵本に音楽をつけてくださることになった鈴木美音さんは、全日本ジュニアクラシック音楽コンクールの作曲ソロ部門で最高位に輝いた才能の持ち主。
美音さんの作曲した曲を、東京交響楽団がサントリーホールで演奏したこともあるとか。
8歳の作曲家・美音さんとの初対面。2人が感じた世界が共鳴する。
できたての原画をもって、美音さんに会いに行きました。
美音さんは、「絵を見てすぐに頭の中に鳴り始めた音楽です」と、譜面に書き留めた曲をその場でピアノで弾いてくれました。
8歳の少女が、この曲を奏でられる、音を生み出せるっていうことが、とても想像できないことで、まずとっても驚きました。
そして、美音ちゃんが「原画から音が聞こえてくる」と言って弾いてくれた曲が、絵に合ってるということを超えて、私が絵にしたいって思った風景が思い浮かぶような音楽だったのです。絵の元になるもの、音楽の元になるものに、共通の感覚があったのかな、と、どんなに嬉しくて安堵したことか。
美音さんの曲の録音風景。ピュアな音の粒が心を震わせる。
ちょっとした光を浴びたり、ちょっと風が吹いたりしたときに、あ、こういうことかな、ということを感じてもらえたら嬉しいですね。ふっと心が落ち着いたり、勇気が出たり、癒やされたりとかね。そういうきっかけにこの絵本がなってくれたら嬉しく思います。
撮影/細川葉子(山崎さん)、田中麻以(山崎さん&美音さん)、取材/田中明子
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Profile・山﨑優子(やまざきゆうこ)
1961年生まれ、神奈川県出身。慶應義塾大学法学部法律学科卒。自らの心ふるえた体験を絵筆にのせて、光や音や匂い、そして気配など、自然の情景を豊かに描き出し五感に訴える画家・絵本作家。『また きっと さこう』『るすばんいす』『たんぱらん』『ぎんぎら なつの あついひは』(至光社)などのほか、四季をめぐる物語を至光社月刊絵本「こどものせかい」に多数発表。『ポンポロッコの森』シリーズ(個人出版)はライフワーク。趣味は自宅の大工ワーク。
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