『ぼくたちのうた』は、心地良い空気がたっぷりとつまった絵本です。
どうやって光や音を絵に写し込むのか、など、作者の山﨑優子さんに伺いました。
ぴっかぴかえほん
『ぼくたちのうた』
作/山﨑優子
2018年10月31日頃発売・小学館刊
■絵本を描くのではなく一枚一枚の絵を描いてみよう
東京・神保町にある檜画廊で個展をやっていたときに、たまたま通りかかった編集者の目にとまって声をかけられた、というのが、今回の絵本の始まりでした。
それは、私にとっては転機といえる時期でした。それまでは、絵本というと、展開に合わせて各ページの絵を描く、という風にやっていたのですけれど、そこから少し離れて、一枚一枚の絵に向き合うことを目標に掲げてやり始めた時期だったんです。
それは、ちひろ美術館の松本猛さんとお話しする機会があったときに、「一枚ずつの絵(タブロー)を描いてみなさい」と強く勧められたのがきっかけでした。
今回は絵画を描くようにがっちり絵を描いてみようと腹をくくって取り組みました。
そして、絵本として構成するために、その一枚一枚の絵を縫っていくような何かを、と思い、赤い紙ひこうきをキーアイテムに。紙ひこうきにすれば、主人公の子のアクションにもなり、世界に対して働きかける気分がある方が感じ取れるものも大きかな、と思いました。
主な画材は、水彩絵の具(透明および不透明)。
筆だけでなく、ガーゼやスポンジなどの日用品も工夫して使う。
■音や光や風を写し取るということ
幻想的な絵ですよね、という方もいらっしゃるけど、私にとっては、自然の情景に対するリアリティで描いているつもりなんです。音や光をどうやって描くかっていったら、自分にとってのリアルに対して、ものすごく忠実にあろうとしているだけかな、ということですね。
子どもが3人いまして、今はもう3人とも巣立っていきましたけれど、子どもと暮らしていた間の体験というのは今仕事をするうえで、ものすごく財産になっているんですよね。
子ども達がこういう自然の中でこういう気分を表すんだな、とか、それを観察するんじゃなくて、一緒に体験できた。落ち葉のシーンも、子どもが実際にやっていました。娘は、落ち葉が降るのを見て遅刻する子でしたから(笑)。「きれいだね」って。大人はそれこそ別のいろんなことをかぶせて考えるけど、子どもは、ただ美しいというのをどこか根源的なところで感じてるんだな、と思いました。
子どもを育てている数年間、絵の具の口も開けないでなにもしませんでした。
だけど、また思い立って描こうと思ったとき、子どもを育てる前と、もう全然違っていたんです。肌感というか、考えるじゃなくて感じるというところからスタートできるようになりました。
>> 次ページ: レイチェル・カーソンみたいなおばあでありたい