『ちびっこ みならい サンタのタンタ』を手がけたのは、今注目のアニメーション作家・まつむらまいさん。
光と色彩あふれる作品の創作の秘密、そして同時制作のアニメについてお話をうかがいました。
*『サンタのタンタ』ミニアニメをご覧ください。
■小1の甥っ子の姿から生まれた「タンタ」
クリスマスをテーマにした絵本の主人公を考えていたときに、小1の甥っ子の顔が浮かびました。というのも、彼は何をやってもすぐに「無理!」というのが口癖なんです。そう言いながら、実はやりたい気持ちがあったりするので、周りの大人たちはなんとか調子に乗せてやらせるという(笑)。
主人公のタンタは、りっぱなサンタさんになるために修行に励むがんばりやさん。いっぱい失敗もするし、たくさん弱音も吐くけれど、困っている人がいたら助けてあげる優しい子、というのがお話の軸になりました。
おじいさんサンタたちがタンタを見守っている姿は、甥の日常にそのまま重なります。私の姉は実家近くに住んでいて、甥は祖父母や叔父叔母たちによく面倒をみてもらっているんですね。それを見ていると、子どもは大人たちに見守られて成長していくのだなあと実感します。でも自分が子どものときにはそのことに気づかないので、絵本に描きたいと思いました。
■絵本と同時に、ミニアニメも
今回は絵本と同時にミニアニメをつくることも考えていて、タンタが動いたときにかわいく見える要素も入れています。見習いサンタの子なので、衣装の袖をダボダボにしたり。帽子のポンポンにしても、それが揺れたりすることによって、喜んでいるんだなとか、感情が表現できます。
ちなみにタンタは“あかいろくつした”をなかなか見つけられませんが、絵をよく見るとどこかにあるので、探してみてください。
■創作は下絵から完成まですべてコンピューター
私がアニメーションに興味を持ったのは、漠然と“ものをつくる仕事がしたい”と思って入った大阪芸大の授業がきっかけでした。
初めてクレイアニメで架空の商品のCMをつくったときに、実写の映像に比べてアニメは少人数で制作できるとわかって、早速、父が買ってきたパソコンでアニメをつくり始めたんです。そこで「これはおもしろいかも!」と思ったことから、創作の世界が広がりました。
実際に、今回の絵本も下絵から完成まですべてコンピュータで作っています。絵を切り抜いたり貼ったりするのもやりやすいですし、私の場合、ベースの色を塗った後に、さまざまな柄を貼って重ねて、色調整などの加工をするのですが、それはデジタルだからこそ、できること。
■オーロラの光を表現するための工夫
たとえばオーロラのシーンは6種類の柄を重ねていますが、これが結構、地道で大変な作業なんです。陰影をつける段階になって、ようやくゴールが見えてくる(笑)。最終的に影をつけることで光が感じられて、立体感のある絵になります。
陰影と立体感を出すことは、創作する上で常に大切にしていることでもありますね。自分が納得できるまで、何度でもやり直したり試行錯誤できるのは、デジタルの良さだと思います。
■絵本とアニメは全然違うよさがあるんです
絵本をベースに「タンタ」のミニアニメをつくるにあたっては、絵本の導入になる内容にしたいと思いました。そして今回、絵本とアニメを同時につくって感じたのは、2つは全然違うけれど、それぞれのよさがあるということ。
絵本は好きなページを好きなだけ見ていられますし、匂いや空気といったものを想像する楽しみがある。読む側の自由度が高いのが魅力だと思います。
逆にアニメはキャラクターと一緒に、流れている時間の中に入り込んで見るもの。映像に引っ張られて、ゴールまで一気に行けるおもしろさがありますし、音楽や声など要素が増えるのも楽しいですよね。ただ、私もアニメをつくっているからこそ、何でも動かせばいいわけではないなって思うんです。
最近はデジタル絵本も増えていますが、紙の絵本の手触りが私は好きですし、アニメにするからには動かす理由があるべきだと。絵本では読者が自由にキャラクターを動かしてもらい、アニメでは“私ならばこのキャラクターをこう動かしますよ”というのを見せたい。絵本とアニメ両方で、かわいいな、楽しいなと感じてもらえる作品をつくっていきたいです。
(撮影/細川葉子 取材・文/宇田夏苗)
ぴっかぴかえほん
『ちびっこみならい サンタのタンタ』
作/まつむらまい
2017年11月8日発売・小学館刊
Profile・松村 麻郁
1979年大阪府生まれ。大阪芸術大学映像学科在学中にアニメーション制作を開始。卒業作品で学長賞、2003年に発表した「カッポロピッタ~まんまくいねい~」は国内外で各賞を受賞。主な作品に食育がテーマのTVシリーズ「魔法食堂チャラポンタン」(全13話DVD発売中)、NHK・Eテレ「シャキーン!」のクイズコーナーなど多数。絵本に「ショボリン』(文・サトシン/小学館刊)がある。chava-doron.com
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