子どもたちには人間も自然の一部だと知ってほしい【絵本作家インタビュー】横塚眞己人さん

『マングローブの木の下で』は、 西表島の豊かな自然の写真絵本。海外の熱帯雨林でも活動する 写真家・横塚眞己人さんの思いを伺いました。

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『マングローブの木の下で』
著/横塚眞己人
2018年6月15日発売・小学館刊

(詳細は、こちらのページをご覧ください)

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■生き物が大好きだった少年時代

僕は横浜市の鶴見で育ちました。その頃はまだ里山的な豊かな自然が残っていて、夏はカブトムシやクワガタムシを捕りに毎日林へ行っていました。昆虫だけじゃなくて、オタマジャクシとかヘビとかザリガニとか、とにかく生き物に夢中で何でも捕ってきて飼っていました。

動物の図鑑もボロボロになるまで読みましたね。絵を見ながら、動物がジャングルをウロウロする様子を想像するのが好きだったんです。

中学生になると生き物から離れていたんですが、大学生になって最初の夏休みに、西表島へ行ったんです。ハマりましたね。海にはサンゴがあって魚がうじゃうじゃいる。

陸には虫やカニ、見たこともないトカゲがいるし、イリオモテヤマネコもいるらしい。マングローブもそのとき初めて見て、「なんじゃこりゃ!」と思いましたよ。アルバイトでお金を貯めて毎年通いました。

■イリオモテヤマネコを撮影したくて西表島に

写真を撮りたいと思うようになったのは、ダイビングの専門誌の編集部に就職してからです。写真を撮る人は必ず現場に行くけど、編集者はそんなに行かない。僕は現場へ行きたかったので、ローンでカメラを買って自己流で勉強しました。

でも、当時の仕事は「やりたいことじゃない」って感じていてね。じゃあ何をしようかと考えて、イリオモテヤマネコを撮ろうと決めたんです。1965年に発見されてから15年ぐらいで、まだよくわかっていないヤマネコに挑戦してやろうと。そのためには西表島に住みこまないといけない、機材も整えなければならない。会社を辞めてアルバイトで資金を貯めました。

準備を整えて西表島へ行く1か月前に、つきあっていた彼女と結婚しました。妻は虫が苦手なのに、西表島はゴキブリはでかいわ、アリは家の中をはいまわるわで、ひどい目にあってる。でも、僕の夢に共感してくれていて、虫が理由でケンカをしたことはないですね。

西表島に住んでいれば1~2年で撮れるだろうなんて甘く考えていたんですが、自力でヤマネコに会えるまで3年かかりました。その3年は焦りの3年、落ち込みの3年です。その間ずっと続けていたのは、森を歩くこと。海岸やマングローブも歩き続けて。そのおかげで西表島の自然全体を体で知ることができたんです。

たとえば、木に実がなると、それを食べに鳥が集まってくる。鳥は夜になると寝床へ帰る。その寝床をヤマネコが襲いにくるんです。木を見て鳥を見て、森全体を観察して理解し、ヤマネコの行動を想像する。ヤマネコだけを追っていても会えなかったのに、そういうつながりを考えられるようになったら、会える確率が高くなりました。それ以来どこへ行っても、まず全体の自然環境を観察するくせがつきました。

■わかりやすく伝える基本が、子ども向けの本にある

いま、僕は子ども向けの自然写真絵本に力を注いでいます。娘が幼い頃に絵本を与えるなかで、自分が作った本をあげたいな、と思うようになりました。

その後の大きなきっかけは、ちょうど娘が小学1年生のときに『小学一年生』の動物記事の撮影をしたことです。子ども向けの撮影は奥が深いと感じました。大人向けと違う。わかりやすく伝える基本が子ども向けのなかにあるんです。そこで培ったものは大きいですね。

絵本の読者には、親子で自然に親しんで楽しんでほしいですね。楽しむなかでいろいろな発見があるはず。小さな発見でも、さらに知ることにつながっていく。そうやって子どもたちに、人間も自然のなかの一部だということをわかってもらえたら嬉しいです。

(取材・文/仲瀬葉子)

 

パプアニューギニアの山の上で、現地の伝統的な衣装とメイクをした人を撮る横塚さん。世界中の自然のなかに出かけています。

 

Profile・よこつか まこと

1957年、神奈川県横浜市生まれ。雑誌の編集者を経て、写真家として幅広く活動。沖縄県西表島のほか、ボルネオ島、マダガスカル島などの海外の熱帯雨林でも、大自然の中に生きる動物たちを撮り続けている。日本写真家協会会員。ボルネオ保全トラストジャパン理事。

【絵本作家インタビュー】リスト

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