『はなちゃん おとなになります』の主人公は、「おとなになるんだもん」が近ごろ口グセの、はなちゃん。第22回おひさま大賞優秀賞を受賞した注目の絵本作家・千葉智江さんが、長年あたためてきたテーマを元に描き下ろしました。
この作品に込めた想いと、絵本作家になるまでの道のりを伺いました。
ぴっかぴかえほん
『はなちゃん おとなになります』
作/千葉智江
2018年3月16日発売・小学館刊
■これができたら大人になれる
子どものころ、「これができたら大人だな」と思っていたことがありました。口笛が吹ける、お人形のリボンが上手に結べる、バスに1人で乗れる…。この絵本で、はなちゃんが一生懸命練習することは、当時、私自身が憧れていたことなんです。
実は今から10年ちょっと前、絵本作家を目指して絵本塾に通っていた時に、この絵本の原型となるものを描きました。以来、私にとって大切なテーマだったので、ずっと心に留めていました。
今回、小学1年生向けの絵本にチャレンジしませんか?とお話しを頂き、ようやく絵本にすることができてとても嬉しいです。
■初めて絵本を作った小学1年生のとき
絵本が好きになったのは、母のおかげですね。仕事をしていて忙しかったけれど、絵本はたくさん読み聞かせしてくれました。
母が林明子さんのファンだったので私も自然と好きなり、保育園時代に『はじめてのキャンプ』を自分で丸暗記して録音していたらしいです。
はじめて絵本を作ったのは、小学1年生のとき。ある兄弟がお砂糖を食べると太りすぎるからと一度は敬遠しながらも、最終的にコーヒーゼリーを作るというお話で、タイトルは『さとう』。ちょうどコーヒーゼリーにハマっていたときに作った絵本でした(笑)。
小学生時代に他にも何冊か絵本を作りました。2歳下の妹と、よくお話を作りあってゲラゲラ笑っていた思い出もあります。物語を中断するのが嫌で、トイレまでついていって話し続けたり。
当時から絵を描くこと、お話を作ることが好きで、漠然と絵本を作る人になりたいと思っていました。
■絵本作家になるためにやったこと
中学生くらいになると、絵本作家になるのはきっと難しいし、そんな夢を語るのも恥ずかしい気がしていました。でも高校時代に進路を考えるにあたり、挑戦しないままでいいのかと思って、林明子さんの絵本を見返したんです。
するとプロフィールに横浜の大学が記されていて。横浜という土地への憧れもあり、林明子さんの絵本に導かれるように地元の岩手から上京する決意をしました。
無事に大学に入れたものの、教育課程の美術専攻だったので絵本の勉強をするわけではなく、周囲にも絵本作家になりたいという人もいないし、次第にこのまま教員になるのかなと思い始めました。
でも就活の時期になってやっぱり絵本への思いが捨てきれず、三重県四日市の子どもの本専門店「メリーゴーランド」に絵本塾があると知り応募。横浜から四日市まで月に2、3回通いました。
「こんなに絵本の話をしてくれるなんて!」と、それまで一人で悩んでいた分、感動もひとしおで。教育実習をやりながらで大変ではありましたが、辞めようとは一度も思いませんでした。そこで自分の道を見極めていけたのだと思います。
■ 絵本塾と図書館での経験を力に
大学卒業後はギャラリーでアルバイトしながら、吉祥寺にあった絵本専門店トムズボックスの土井章史さんと編集者の小野明さん主宰の「あとさき塾」という絵本塾に通いました。
講師の方たちは私たちを最初から作家として扱ってくださり、意見は言うけれど、「最終的に決めるのはあなたですよ」というスタンス。コンスタントに作品を描いて、見てもらい、練り直して…という作業は、辛い方が大半でした(笑)。
「描き上がることを目的とするのではなく、描くことを楽しむように」と言われたことは今でも印象に残っています。2つの絵本塾に計6年近く通い、筋トレのように絵本を作る土台を鍛えてもらった気がします。
あとさき塾時代に小野さんの紹介で、1作目の『みずうみ』を出すことができました。でも次が続かない。これで終わってしまうのか…と悶々としていた時期が一番辛かったですね。
ただそのころ、図書館で働いていて、子どもたちが絵本とどう出会い、どう楽しんでいるかを目の当たりにできたのはよかったです。おはなし会をすると、驚いた時には本当にハッとした表情になるんだなとか、絵本を描くうえで役立っていると思います。
■ おとなになるって、どういうこと?
よく幼稚園から小学校に上がると「子どもが変わる、成長する」と聞きますが、自然にそうなるというより、自分で何かやってみようとして切りひらいていくところがあるのかなと思うんです。
だから小学1年生に向けてこのテーマを選んだのですが、では改めて大人になるって?とつきつめて考えたとき、たんに1人でバスに乗れました、でおしまいにはしたくなかった。実際のところ、何かができたから大人になるわけでもないし、逆に大人だってできないことがあるので…。
はなちゃんの姿を通して、何かができるようになる喜びももちろんのこと、最後は何かができた、とは違うアプローチで喜びや成長を描きたかったんです。
今後も自分が面白いと感じたものをきっかけに絵本を描いていきたいですね。想像もつかないお話が自分の中から飛び出してきそうで楽しみです。
(取材・文/宇田夏苗、撮影/細川葉子)
Profile・ちば ともえ
1984年岩手県生まれ。 横浜国立大学教育人間科学部学校教育課程美術専攻卒業。 子どもの本専門店「メリーゴーランド」主催の「絵本塾」、絵本ワークショップ「あとさき塾」に参加。 第16回ピンポイント絵本コンぺ入選。第22回おひさま大賞優秀賞受賞。 日常のドラマをそっと切り取り、丁寧なタッチで瑞々しく描く作風に注目が集まる。 絵本に『みずうみ』(大日本図書)がある。
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