『クマノミのおさんぽ』の写真を撮ったのは、水中冒険家・水中カメラマンの広部俊明さん。
大きな大きな海の底で生きている、とっても小さな生き物たちを撮影することへのこだわりを伺ってきました。
ぴっかぴかえほん
『クマノミのおさんぽ』
著・写真/広部俊明 著・文/羽田美智子
2017年7月14日発売・小学館刊
■人生を変えた、スキューバダイビングとの出会い
バンド「夢工場」として活動していた頃、縁あって体験スキューバダイビングをやる機会があったんですが、その一回で夢中になってしまい、すぐにスキューバダイビングのライセンスを取って、頻繁に海に潜るように。一年後にはインストラクターのライセンスまで取得しました。どうせやってみるからには、その道のトップを目指そう、と。夢中になったら一直線な性格なんです。
そして、子供の頃から写真を撮るのが好きだったこともあり、スキューバダイビングと出会って、海の写真を撮りたいと思うようになりました。水中写真にはまっていくのは自然な流れでしたね。
それから、沖縄県の恩納村に移住し、ダイビングショップを開きました。ダイビングポイントや洞窟を発見・調査するようになり、水中探検家としての活動を始めました。その後、テレビ番組や雑誌の依頼で海中撮影を行う機会が増えていき、水中カメラマンとしての活動も本格的に行っていくようになりました。
気がつけば、スキューバダイビングを始めてから、もうすぐ30年。日本国内はもちろん、世界中の海に潜って、探検・撮影してきました。潜った本数は1万5千本を超え、撮影した映像は3千時間をゆうに超えています。でも、まだまだ満足していません。この道のトップを目指していますからね(笑)。
■海の魚はカラフルだけど、魚たちは気づいていない
海の中で写真を撮るには、やはり地上とは勝手が異なりますので、気をつけなければならないことがたくさんあります。 たとえば、絵本を見ていただくとわかりますが、海の魚は実はとてもカラフルです。ですが、普通に撮影しても、カラフルには写りません。海底というのは、赤色が入ってこないので、全体的に青く見えてしまうんですね。だから、魚たちも自分たちがカラフルだって気づいていません(笑)。そこで、水中ライトをうまく当ててあげると、魚たち本来の色が見えてきます。水中撮影においては、ライティングはものすごく重要なんです。
また、海のコンディションは刻一刻と変わり、思い通りの写真はなかなか撮れません。ですので、僕は納得いくまで一つの被写体に時間をかけます。記念写真ではなく、写生のイメージです。写生って1日に1枚、場合によっては何ヶ月も1枚にかけたりしますよね。1回のダイビングで約60分前後海に潜りますが、1匹しか撮らないなんて、しょっちゅうあります。時には、何ヶ月も1匹だけを撮り続けるなんてことも。
■大きな海の中に広がる、小さなミクロの世界
絵本に載っているのは、ほとんどがとても小さい魚です。普通だと、はっきりとはなかなか見えません。ですが、ミクロの目で見てみると、素晴らしい新たな海の姿が見えてきます。海はすごく大きいけれど、こういった魚たちが暮らす、ミクロの世界もそこには確かに広がっているんです。彼らにとっては、小さいのが当たり前で、小さくても一匹一匹が立派に生きています。
この絵本を読んで、深い海の底にもたくさんの友達がいることを知ってもらって、好きになってもらいたいですね。そして、自分より小さい命を大事にする気持ちも育んでもらえたら、と思います。
(取材・文/三宅佑治)
Profile・広部俊明(ひろべとしあき)
1965年、東京生まれ。1986年バンド「夢工場」でデビュー。1995年に沖縄に移住し、翌年より水中探検家として活動を始める。沖縄県恩納村で多くの海底鍾乳洞を発見するなど、沖縄を中心に様々な海域で海底遺跡や海底洞窟等を発見、調査を行う。水中カメラマンとしても活動し、多くのテレビ番組の水中撮影を担当。世界中の海で探検、撮影を行っている。
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