子供達に地獄を伝えることは大切【絵本作家インタビュー】青山邦彦

■ミニ絵本と書籍絵本で、地獄がより怖く恐ろしく見える表現に変わりました。

初出となった『小学一年生』のミニ絵本付録の時は、雑誌掲載という事で、怖いながらも残酷な場面は避けました。ウルトラマンの生みの親、円谷英二さんも、血を出すシーンは絶対に出さなかったと言われてます。ウルトラマンで育った私もそれに倣って、流血、残忍なシーンを出さずに怖がらせる事に努めました。

でも書籍化の際、読者が小学1年生だけでなく全ての年齢層にひろがるという事で、もっと地獄らしさをストレートに出した方が良いのではと編集部から意見が出ました。地獄らしさとはつまり、人が切り刻まれたり、突き刺されたり、潰されたり、焼かれたり…。そしてそれに伴うおびただしい流血…。最初これを聞いた時はものすごい抵抗が、心の中で湧き上がりました。

子供のための絵本だぞ! 残酷なシーンなんて一度も描いた事ないし、描くべきでもない!  そんな感じで数日間、葛藤がありました。

でも最初に私を震え上がらせた地獄の絵にも、残酷なシーンがあった事を思い出しました。そういうシーンがあったからこそ、ずっと強烈な印象として残っているのではないか?  そもそも地獄は悪いことをした人が、罰を受ける所。怖いだけでは単なるお化け屋敷と同程度かもしれない。地獄の怖さは辛い事、痛い事の上にあるもの。

そして何よりも地獄は「絶対に行きたくないところ」だと感じさせるのが一番大事なのではないか?  …と思い始めました。そうなると編集部からの意見も、なるほどと思えるようになってきました。

それでも流血や、人体の切断シーンなどを描くのは初めてで、最初に筆を動かし始めた時はかなり抵抗がありました。でも描き始めたら腹が決まりました。描くからには徹底的に描こうと。

画面の片隅とか、後方に小さく見えるなどではなく、メインで前面に押し出して。出来上がった絵本を通してみると、なるほど、かなり地獄らしくなったと思いました。結果として描いて良かったと思いました。でも決して残酷なシーンを描くのが好きになったわけではありませんよ!念のため…。

■この世のどこにもない地獄を、まるで見てきたかのように緻密に描くこと

私は大学、大学院で建築を専攻して、卒業後4年間建築事務所に勤務しました。その間、図面を元にした建物の完成予想図をたくさん描きました。それこそまだこの世のどこにもない建物を、まるで見てきたかのように描く手法でした。

特に建築事務所時代は、どうすればお施主さんにリアルな雰囲気を伝えられるか悩んだものです。光の当たり具合、壁や床の質感など、どう描けばより本物らしく見えるか試行錯誤の連続でした。

そういった経験が絵本で役に立ってくれているのだと思います。まあ今回は建物の絵ではなく地獄の絵ですから、「完成予想図」ではなく「死後予想図」ですね。

■読む人を怖がらせることが目的ではなく、2度3度読んでも楽しめる要素がいっぱい

細かい絵を描いていると毎回いたずら心が出てきて、ついつい悪戯描きをしてしまいます。一人メガネをかけている死人がおります。それは私かも。まあパノラマ的な絵は、描いていれば自然とにぎやかで楽しげになる傾向が強いと思います。

いつもの絵本であればそうなってくれると嬉しいのですが、地獄が楽しげに見えてしまってはちょっとまずいですよね。なので楽しげに見えないように頑張りました。とは言え、やはりまずは楽しんで頂きたいですね。

■地獄のシーンが強烈な印象として頭の中にずっと残って欲しい

まず子供さん達には私自身が地獄の絵を初めて見た時のように、震え上がって欲しいですね(笑)。怖くて見たくないんだけど、ついつい見てしまう…という感じで手にとってもらえると嬉しいです。

そして私の描いた地獄のシーンが強烈な印象として頭の中にずっと残って欲しいです。そしてそれをまた後世の子供達に伝えていって…なんて考えるだけで楽しくなりますね。

「悪い事をすれば地獄に堕ちる」と少しでも信じる限り、人間は完全に悪人になりきれない。…と、私は思います。形がどうであれ、太古の昔から人類は「地獄」を心に持ち続けて来ました。だからこそ、何回大きな戦争が起こっても社会が消滅しないでこれたのではないでしょうか?

「人を殺めたら地獄に堕ちる」という考えが全く起こらなければ、とっくに人類は無くなっているような気がします。お父さん、お母さんが子供達に地獄を伝えることは大切で、子供達が生きていく社会を未来に存続させる事に繋がると思います。

取材/田中明子)

 

Profile・青山邦彦 (あおやま くにひこ) 

建築設計事務所勤務を経て、絵本作家となる。 2002年ボローニャ国際絵本原画展、ノンフィクション部門入選。第 20 回ブラティスラヴァ世界絵本原画展出展。 2017年講談社出版文化賞絵本賞受賞。 主な絵本作品に、『大阪城絵で見る日本の城づくり』、『江戸の妖怪一座』、『ぐんぐんのびる東京スカイツリー』などがある。

【絵本作家インタビュー】リスト

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