落語も俳句も、あったほうが心が豊かになる【絵本作家インタビュー】桂文我 × いのぐちまお

ぴっかぴかえほん『ばしょうさんとかっぱ』は、「俳句」を題材にした落語絵本です。松尾芭蕉の生誕地である三重県伊賀市の芭蕉翁記念館にて、作者のお二人にお話を伺いました。

 

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ぴっかぴかえほん
『らくごえほん ばしょうさんとかっぱ』
文/桂 文我  絵/いのぐちまお
2019年6月13日発売・小学館刊

詳細はこちらのページをご覧ください。

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■同じ時代を生きた 落語家の祖と、松尾芭蕉

文我 『らくごえほん ばしょうさんとかっぱ』は、松尾芭蕉の 俳句を題材にした落語絵本ということでしたが、実は落語家の元祖といわれる、もとは京都のお坊さん・露の五郎兵衛という人と、松尾芭蕉は同じ時代を生きた人なんです。

お説法で話にオチをつけてしゃべる露の五郎兵衛はおもしろかった。その評判を松尾芭蕉が聞いて、これからは「露」も、新しいのと古いのと、扱いを変えなければいけないね、と言ったという逸話が残っています。

それまでは、俳句の世界では 「露」は「はかなさ」を表す言葉だったけれど、「おもしろい」という新しい意味が加わった、という、ある種の冗談を言ったのだと思いますが。

まお 落語家さんの元祖の方と松尾芭蕉さんに接点があったとは初めて知りました。

文我 俳句を取り入れた落語というのも、いっぱいありましてね。落語というのは仏教説話が下敷きになっていることが多いのですが、そこに俳句を取り入れることで説得力を持たせた、ということがあるんでしょうね。落語には「俳句」は重要な題材だった、ということですね。

■子どもが楽しむ落語絵本

まお 私の最初の落語体験は、幼稚園のお泊まり会の時でした。先生が寝る前に絵本の『じごくのそうべえ』を読んで聞かせてくれたのです。

文我 そうですか。寝る前に!? (笑)

まお はい。それがすごくおもしろくって、お泊まり会から帰ってすぐに 母にねだって買ってもらったほどです。

文我 あの絵本は、私のおじいさん師匠の桂米朝の「地獄八景」というネタのテープを、絵本作家の田島征彦さんがすり切れるくらいに聴いて作ったんです。

落語で1時間くらいやっておもしろいネタを、10分の絵本にまとめるということで、米朝師匠も最初見たとき顔をしかめたらしいのですが、それが子ども達に大ウケになったんですから、すごいもんですよね。

まお この前図書館で、子どもさんが 『じごくのそうべえ』を手に取ってい たのに、お母さんが「やめておきなさい」と閉じているシーンを見かけて、 うーん、子どもでもおもしろいのに、と残念に思いました。

文我 大人の見え方と、子どもの見え方は違いますからね。冒頭の言葉も難しそうだし、絵も強烈ですけど、子どもはグッと絵本の世界に入り込めるんですよね。

まお 何度も読ん で、覚えてしまうこともありますよね。

文我 そうそう。私も子ども向けの 落語会「おやこ寄席」を長年やっていますが、子ども達に「なにをやってほしいですか?」と聞くと、私がこしらえた創作落語絵本 『ごくらくらくご』の中のネタをやってほしいといういうお子さんがいたりします。

「ぼく、ぜんぶ言えるよ」って。 じゃあ、やらなくてもいいじゃないって思うんですけどね(笑)。それでこちらがちょっと違うこというと「違う!」って。それだけ楽しんでくれているっていうことですね(笑)。

■心が豊かになる俳句

短冊に みえる落ち葉の 俳聖殿 文我

あざやかに はえるふゆのひ かっぱいろ まお

 

まお 先日、「イガデハク」という伊賀市でのイベントで、子ども達と一緒に俳句を作る会に参加してきました。思いついた言葉を芋づる式に出していって、言葉をつなぎ合わせて俳句を作っていくんです。

学校の授業ですと、難しいように感じる俳句も、そのやり方なら楽しく作ることができました。

文我 そうですね。俳句は遊びです、 楽しいもんです、と捉えると、敷居がぐっと低くなって、みんなが入りやすいと思うんですよね。

今回の絵本でも、五七五で何かを表すというのはおもしろい、と思ってもらえればいいですよね。

まお 絵本に出てくる、かっぱのくだらない句も、私は好きなんです。 身近な生活で気づいた発見を、普段の言葉でしゃべっても俳句になるんですよね。

その道をどんどんいくと、てっぺんに松尾芭蕉さんがいる、ということですね。

文我 落語も絵本もそうですけれど、 俳句だって、世の中になくても困らないものなんですよね。でも、あったほうがより良いし、あったほうが心が豊かになるというものです。

そんな俳句の最高位にいるのが松尾芭蕉である、と捉えるのがいいんじゃないかと思うんです。

最初から高いところを見るんじゃなくて、身近なところから始めてね。みんなで俳句遊びを楽しみましょうよ、っていうことですよね。

1644年に三重県・伊賀の地で生まれた松尾芭蕉。伊賀市には芭蕉翁記念館など芭蕉ゆかりの名所があります。

 

(撮影/細川葉子 取材・構成/田中明子)

 

 

Profile・桂文我

三重県松阪市出身。落語家。昭和54年に桂枝雀に入門。平成7年、四代目桂文我を襲名。国立演芸場花形演芸会大賞など受賞多数。30年ほど前から子ども向けの落語会「おやこ寄席」も各地で開催。落語絵本の著書も多数。みえの国観光大使、松阪市ブランド大使。

 

Profile・いのぐちまお

三重県名張市出身。イラストレーター、絵本作家。2018年、第16回、第19回ピンポイント絵本コンペ入選。現代童画展入選。越前市紙芝居コンテスト入選。亀と落語が好き。

 

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作者 文/桂 文我  絵/いのぐちまお
定価 本体 1300 円+税
発売日 2019年6月13日
ISBN 9784097253013

江戸時代、俳句を文学として大成させた松尾芭蕉の句を味わうとともに、身近な発見を五七五の十七音で表す楽しさを伝える、俳句テーマの創作落語絵本です。

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