鹿の歯医者さんを舞台に、いろいろな動物たちが歯のお悩みを相談に来るユニークなお話『しかしか』。
文章担当の山田マチさんと一緒に、絵を担当した岡本よしろうさんのアトリエを訪ねて、息ピッタリの作品に仕上がるまでの制作秘話をお伺いしました。
ぴっかぴかえほん
『しかしか』
文/山田マチ 絵/岡本よしろう
2020年4月17日発売・小学館刊
■好きなものはクスクス笑い。クラスでひとり笑ってくれたら。
山田 『しかしか』に岡本さんの絵がついて、子どもたちが歯医者さんに行くのが楽しくなるような絵本になりました。「鹿の歯科」っていうダジャレがこんな形になるなんて、嬉しいです。
岡本 あ、ダジャレからこのお話を思いついたんですか?
山田 いえ、ダジャレは後から(笑)。初出が学習雑誌『小学一年生』だったので、1年生に身近なことって何だろう、と編集さんと話していたんです。それで、1年生はちょうど歯が生え替わるときで、しかも誰しもみんな歯は生え替わるので、歯にまつわるお話がいいですね、となったんです。
岡本 僕はこれまでの仕事で求められたものが真面目でリアルな作品が多かったので、ずっとそれを頑張ってきましたが、僕自身はホントはコメディな人間なので、今回のような作品はやっぱりおもしろいと思いました。
山田 岡本さんのHPを拝見しただけでわかりましたよ。あ、根はふざけてる人だ、と(笑)。
岡本 クラスの友だちを笑わせて喜んでる、というタイプなんです。マチさんも一緒でしょ。
山田 そうそう、好きなものはクスクス笑い。全員にウケなくてもいいので、クラスに1人、これを読んで笑ってくれる子がいてくれればいいなあ、と思って書いています。
岡本 わかります。僕もクラスの中心で人気者になる、というよりは、自分が描いた漫画でクラスの数人が笑ってくれたら満足で、中学・高校とずっと漫画を描いてました、授業中に(笑)。
山田 私は学生のころ、演劇部の延長で、コントをつくったりしていて。昔、「元気が出るテレビ」で「お笑い甲子園」というのがあったんですけど、初めて作ったコントで全国大会まで出場したんです。目立つ子では全然なかったんですけど、「あ、ちょっと得意なのかも」とそれで気づいたんですよね。
■人を笑わせたい、喜ばせたい。その原点は?
岡本 マチさんの、笑いの原点みたいなものはありますか?
山田 中学2年生のときに、文化祭でお芝居をやるということで初めて脚本を書いたんです。みんなと一緒に作り上げた笑いで盛り上がった、それが楽しい、と感じたのが最初だったのかもしれません。子どものころからテレビのお笑い番組も好きでしたし。
岡本 僕も、めちゃくちゃテレビっ子だったんです。親が自営業だったので、一人遊びばっかりで、工作とお絵かきとテレビの毎日でした。小学2年生くらいのときに、ひょうきん族がガーッと人気になって、ドリフから乗り換えて…。
山田 私は最後までドリフ派だったんです、クラスの子たちがみんなひょうきん族に流れても。ドリフとか新喜劇とか、作られた笑いが好きだったんです。突発的なものよりも、下地があって構築する、みたいなのが好きだったんですね。
岡本 めっちゃ一貫してますね。
■読んだ人に鼻で笑ってもらえたら嬉しい
山田 今振り返ると、好きなものはそう変わっていないのかな、と思いますね。やはり自分が作ったものがお客さんにウケるって、本当に嬉しいですね。私は絵が描けないので個展とかできないはずなんですけど、文章の個展をたまに開いているんです。
岡本 文章の個展って、どういう形でやってるんですか?
山田 「山田百字文学」というのをやっていまして、百文字原稿用紙に百字ぴったりの文章を書くんですけど、それを壁にたくさん貼って並べたり。あと、ちまちましたものが好きなので、マッチなどの小さいものにちょっと文章をつけて、それを会場に置いたり。
岡本 物につけてある言葉を見てもらって、お客さんとコミュニケーションを取るんですね。おもしろい。
山田 そりゃ、大勢の人がドッカーンって笑ってくれたら気持ちいいだろうと思いますけど、文章だとそれは難しいので。だから、自分でできる範囲内でちまちま作って、読んだ人に鼻で笑ってもらえたら嬉しいなと思うんです。
■小さなくすぐりを重ねていって、最後スポーンと爽快なのが『しかしか』
岡本 小さい笑い、それをつなげていくと、導火線みたいになっていって、それほどでもないことで、ドッカーンって笑いが起こったりすることもありますよね。『しかしか』も、小さいくすぐりを重ねていって、最後スポーンと抜けるところで爽快感が出て気持ちいい。
山田 岡本さんの、創作の原点はなんですか?
岡本 僕は小学校低学年のときに、友だちにガンダムの絵を描いてあげたら、これがもう本当に嬉しそうな顔をして、その絵を持って帰ったんです。それがぼくの原風景みたいで。
山田 自分の絵で人が喜んでくれた、という体験ですね。岡本さんは、読む人がウケるところを想像して笑いながら描くんですか?
岡本 いやいや、もういろんなものに追われて、笑ってる場合じゃないことが多いですね(笑)。
■おもしろがって読んだ本がきっかけで、また別の興味が膨らんでいってくれたら。
山田 歯が生え替わる本人は嫌かもしれないけど、歯が抜けている子ってすごくかわいいです。歯が抜けた今をおもしろがってほしいな、と思います。成長している印であると、堂々と。大人になってから抜けると悲しいですけど(笑)。
岡本 おもしろがってくれたら、いろんなことが伝わるかな、と思うんです。お勉強だと思うと、なかなか入らないですけど、楽しんでいたらいろいろなものを吸収しますから。そして吸収したことは、読んだ子の特性になる。この絵本をおもしろがって読んで、イッカクを研究したくなるかもしれませんし。おもしろがって読んだ本がきっかけで、また別の興味が膨らんでいってくれたらいいですね。
(撮影/細川葉子、取材/田中明子)
Profile・山田マチ(やまだまち)
愛知県生まれ。2007年、「山田の書きもの」をWEB上で開設し、ショートストーリーを次々と発表。2009年、短篇集「山田商店街」(幻冬舎)でデビュー。くすりと笑える文章は、子ども向けの絵本や読み物でも人気に。著書に、【山田県立山田小学校】(絵・杉山実)、『てのりにんじゃ』(絵・北村裕花)、『どこどここけし』(絵・花山かずみ)などがある。
Profile・岡本よしろう(おかもとよしろう)
山口県生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業。2011年月刊たくさんのふしぎ8月号『まちぼうけの生態学』(文・遠藤知二/福音館書店)で絵本デビュー。リアルからコミカルまで幅広いタッチで描ける作家として注目を集めている。著書に『生きる』(詩・谷川俊太郎)、『100円たんけん』(文・中川ひろたか)、『かおはめえほん たすけてー!』、『パンダのパンやさん』などがある。
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