すべてをすてても、やさしさはすてられない
【あらすじ】
青海原の小さな島に、大きな鬼ばばが一人くらしていた。
「かまわんとならんもんが、おらんのはええ」と言いながらも、島に流れ着くあれやこれやをついつい拾って世話してしまう……。
第1章 やっかいなもん、ひろうてしもた
第2章 とんでもないもん、ひろうてしもた
第3章 なさけないもん、ひろうてしもた
第4章 うっとうしいもん、ひろうてしもた
あるがままに生きるおそろしい鬼ばばの、愛情深い4つの物語。
ISBN:9784092893153
今井恭子/文、阿部結/絵
定価:1430円(税込)9月16日発売 A5判98ページ
【作者プロフィール】
今井恭子(いまい・きょうこ)
広島県生まれ。児童文学作家。日本文藝家協会会員、日本児童文学者協会会員。本作の第1話「やっかいなもん、ひろうてしもた」は「鬼ばばの繰り言」のタイトルで、毎日新聞社主催第10回《小さな童話大賞》落合恵子賞を受賞。『歩きだす夏』(学研)で、第12回小川未明文学賞大賞受賞。『こんぴら狗』(くもん出版)で、第58回日本児童文学者協会賞、第65回産経児童出版文化賞産経新聞社賞、第67回小学館児童出版文化賞受賞。そのほかの作品に、『ぼくのわがまま宣言!』(PHP研究所)、『丸天井の下の「ワーオ!」』『縄文の狼』(くもん出版)、「キダマッチ先生!」シリーズ(BL出版)、『ギフト、ぼくの場合』(小学館)などがある。
阿部結(あべ・ゆい)
宮城県生まれ。中学校で美術教師を務めていた画家の父の影響を受け、幼少のころから絵に親しんで育つ。パレットクラブスクール、あとさき塾にてイラストレーションと絵本制作を学び、書籍装画や演劇の宣伝美術などを数多く手掛ける。絵本の作品に『あいたいな』(ひだまり舎)、『ねたふりゆうちゃん』(白泉社)、『おやつどろぼう』(福音館書店)、イラストレーションの仕事に、『世界不思議地図』(佐藤健寿/著、朝日新聞出版)などがある。
絵童話『鬼ばばの島』今井恭子さんインタビュー
「鬼ばば」というと、こわくておそろしいというイメージを持つ人も多いと思います。
この『鬼ばばの島』は、見開きごとに挿絵がたっぷりと入った「児童書」ですが、なんとも人間くさい心をもつ鬼ばばが主人公で、大人の、もっと言うなら母親の本音を描いたような作品です。
著者の今井恭子さんに、この物語の誕生の秘密について伺いました。
今井恭子さんと愛犬のエレン
こんな風に生きられたらいいだろうな、という無意識の憧れが鬼ばばに凝縮した
Q.「大海原に浮かぶ小さな島に一人ですんでいる鬼ばば」という設定は、少し恐ろしくもあり、一方で憧れに近いものも感じます。
この物語が最初に生まれたときのことや、当時の想いを教えてください。
A.「かまわんとならんもんが、おらんのはええ」――鬼ばばの口癖です。
愛する者、気づかう相手がいることは、ある意味とてもやっかいなことなのです。一人ぼっちの寂しさは、気楽で気まま、自由な生き方の裏返しです。
鬼ばばはお父(とう)は食ってしまい、息子は南の海へ投げ飛ばし、小さな島にしがみついて海を相手に一人生きています。かまわんとならんもんが、おらんのはええ、です。でも、ついつい拾ったものを世話しては、気持ちも生活もかき乱され、自らに嫌気がさしてしまうのです。
第一話を書いた頃、私は子育て中でした。持病もあれば体力もない私にとって、共稼ぎと育児は重労働でした。いつもくたびれていました。こんな風に生きられたらいいだろうな、という無意識の憧れが鬼ばばに凝縮した、と今になって思います。
おばばの生き方は、今風に言えば「断捨離」の極致です。私はいまだに断捨離さえかないません。文章なんかに執着しているのが、何よりの証拠です。
この作品は大人、特に高齢の女性に共感してもらえると思っていますが、子どもの読者がどうとらえるのか。興味深いと共に、その反応が想像できず、戦々恐々としています。
第一話は、1993年に毎日新聞社主催「小さな童話大賞」の落合恵子賞を受賞
Q.『鬼ばばの繰り言』での受賞から28年、新しい章の加筆、また修正を経て、単行本として出版することになりました。今のお気持ちをお聞かせください。
A.『鬼ばばの島』は、四話の短編からできています。
その第一話は、1993年に毎日新聞社主催「小さな童話大賞」の落合恵子賞を受賞した『鬼ばばの繰り言』です。
当時から、この物語をいつか絵本にしたいと強く思ってきましたが、持ちこむたびにどの出版社からも断られるばかり。面白い! とは言ってくれるのですが、わが社では出せません、と。その間に第一話を書き直し、続編を三話書いて第四話で完結としました。あれから28年、この物語を出版してくださった小学館の蛮勇?! に心から感謝しています。今回断られたら、さすがに私ももう諦めようと思っていましたので、うれしいというより、ほっとしたというのが本音です。生きてて良かったー、であります。
熱い思いでこの本を作ってくださった編集者、イラストレーター、デザイナーさんたち、かかわってくださった全ての皆さんに、心からありがとう。
装画・挿絵の阿部結さんの本気度、熱意には並々ならぬものを実感
Q.本作は、若手絵本作家・イラストレーターの阿部結さんとのタッグを組んでの絵物語となりました。阿部さんとのやり取りなど、印象に残ったことはありますか?
A. イラストを誰にお願いするかでは、編集者共々迷いました。
ちょっと冒険でしたが、若い才能に賭けることにして、阿部結さんにお願いすることにしました。大成功でした。阿部さんには本当にいろいろと細かいことをお願いし、その都度スピーディーに、丁寧に対応していただき感謝しています。本人から伺ったのですが、イラスト一本で立って行こうと決められてから、まだ時間が経っていないようでしたが、だからこその本気度、熱意には並々ならぬものを感じました。今後のご活躍が楽しみです。
心惹かれるページがいくつもあります!
Q.一番気に入っているページはどこですか?
A.一番気に入ったページと問われても、1ページを選ぶのは難しいです。
鬼ばばのイメージは、長年私が温めてきた図とほぼ同じに描いていただきましたので、鬼ばばのアップのイラストには心惹かれるページがいくつもあります。が、ここではあえておばばが小さく影で描かれた11ページのイラスト、と言いましょう。嵐に荒れる夜の海に踏みこんで、遭難している小舟をぐいぐい引いて島に帰る絵です。阿部さんの力強い筆致と構図に強く惹かれます。
拙文については、おばばがつかの間の安らぎを得た最後の1ページにしておきます。
ーーー貴重なお話、ありがとうございました。
(聞き手・田中明子)
短い物語ながらも、さまざまな人間の業を描いた本作品。お子さんだけでなく、大人の方にも読んでいただきたい一冊です。
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